社員の事業承継は、お金のかからない方法を選択する

社員が創業家から会社の事業承継を受ける場合、必要なお金のことが心配です。

給料の中から貯えたお金で足りるのか、それとも借金するのか。それより、そもそも事業承継にどれだけお金がかかるかで、身の振り方を考えなければならないかもしれません。

私たちは、社員の方が、事業承継で解決しておかなければならない、お金の問題を一気に解決する方法を提案しますので、最後までお読みください。

事業承継で何故お金が必要になるのかを考える

社歴もあり、年商も利益も稼いでいる会社を引継ぐことになった時、最も心配なのはお金のことです。

まず、一般的に言われていることは、会社を引き継ぐということは、会社の発行する全株式を譲渡してもらうということです。おそらく売上もあり利益を出しているのなら、その株を購入したり貰うとなると、半端でない額となるはずです。

もちろん、社員にそんなお金があるとは思えません。

事業承継にかかる贈与税額が高額で,会社引継ぎをギブアップする?

私たちが依頼者より頼まれ計算する会社の株式評価額は、資本金の額の10倍なんて言うのは珍しくありません。例えば、資本金1000万円の会社であれば、ざっと1億円の評価です。

仮に、評価が1億円の会社の全株を、創業家からタダで貰うとなると、ざっと贈与税は5000万円です。

はっきり言って、そんな株貰いたくはありませんね。

贈与税はいくらかかる?

事業承継の時の贈与税額が、事業承継にかかるマックスの額と考えていいでしょう。つまり、会社の全株をタダで貰うとなると贈与税が必要なら、如何にそれを少なくするかを考えればいいのです。

会社を譲り受けるために、借金をして贈与税を払うというのもつらい話です。

株式を貰うなら株価計算で安くなってから

会社の株式の評価には、一定の計算方法があります。毎年の利益や蓄積した利益の額などが多ければ大きいほど株価は高くなります。

しかし、それは会社が何もしなかった場合のことです。つまり、会社の株価計算をする前に、株価が大幅に引き下げられる行動を会社がとれば、株価は下げることは可能です。

例えば、役員の退職金などがそれで、いかにタイミングよく、支給するかがポイントとなります。

株を安くするためにその他の税金も考える

事業承継にかかわる贈与税負担を少なくするために、無理に株価を引き下げることを考える方もいます。

先ほどの役員退職金なども、如何に退職金の税率が低く所得税の負担が少ないと言っても、所得税という不要な負担を強いられます。

また、退職金と共通するのですが、会社が創業家の株主に、蓄積した利益を全額配当するということも考えられます。もちろん、この方法で過去の利益の蓄積はなくなり、株価は下がります。

しかし、支払った配当の約半分が税金となり、これも最悪の税負担となります。

つまり、株価を引き下げるというのは、どこかで違った税負担をあきらめるという覚悟が必要にあります。

贈与税を繰り延べる方法は命取り

そこで、贈与税もその他の税負担もしないで、事業承継における会社の株を後継者に贈与できる方法があります。

これは、2027年12月31日までの期限で、事業承継における会社の株式について贈与税や相続税の支払いを全額繰り延べる制度です。

全額支払わなくても、贈与税の支払いが繰り延べられるというのは魅力的ですね。

ところが、この制度は贈与税を免除するのではありません。したがって、いつその支払いが発生することがあるか分からないということです。また、会社の株を社員後継者に贈与した創業家で相続が発生すると、相続問題に巻き込まれる可能性もあります。

したがって、社員後継者の場合は、この税の繰延の制度を使うことはお勧めしません。

なお、創業家の親族の場合は、そのような問題も少ないため、この制度の利用は可能です。

もう一度引き継ぐものは何かを考える

価値のある会社の株式を、無償で譲渡するというのはどうも、社員にとっては非現実的ですね。

税負担や、見えないリスクが潜んでいそうです。

そこで、もう一度原点に返り、事業承継とは何か、特に社員後継者にとってはないがポイントとなるのか考えてみましょう。

事業承継の会社で引継ぐべきものは何でしょうか

社員にとって、会社で引継ぐものは、ズバリ社員の生活基盤としての会社です。そして、それは、お客様、社員、仕入先、ノウハウ、信用などです。これらが引継げれば、多額のお金も、投資も必要ありません。

要するに、お客様はじめ、社員なども全て、決算書には出てこないもので、評価のしようがありません。むしろ、これらは移ろいやすく、一瞬の内に霧散してしまうこともあります。

保有する不動産や多額の金融資産は、今後、会社が儲かるのなら事業承継で引き継がなくてもいいのです。まずは会社が成長できる、お客様や社員という無形の資産が大切なのです。

無形の資産を持つ会社を引き継ぐ

創業家が、これら無形の資産を持つ会社を無償で譲ってくれるというなら税の問題は気にする必要はありません。

つまり、このようなことは現実世界で沢山ある話で、社長と喧嘩し、社員が仲間を引き連れ会社を出て行くようなことは、どの業界でもあります。 

また、お客さんもついでに引き連れて出ていくということも、珍しいことではありません。

これは、社員と会社が敵対関係になる場合ですから、社員による事業承継には当てはまりません。

しかし、このことを会社と社員全員が合意し、平穏に出ていくというなら話は別です。このようなことは、昔からあることです。

つまり、これは会社の実態は何も変わらず、社員に会社を引き継ぐ方法の一つなのです。

安上りな事業承継の手法を考える

結局、事業承継とは会社の持つ有形の財産を引き継ぐのではなく、お客様や社員という無形のものを引き継げばいいということは理解していただきましたか?

それでは、具体的にお金をかけないで、無形の財産を持つ会社を引き継ぐのはどうすればいいのでしょうか?

事業譲渡という方法

事業譲渡とは、まさしくお客様や社員などと、営業債権債務や在庫を社員が作った会社に有償又は無償で譲渡する方法です。

一般的には営業譲渡又は権利譲渡と呼ばれ、飲食店などの店舗をお客さん付きで売却するときに使われます。

会社における営業譲渡は、引き継ぐ財産と引き受ける債務額が同額であれば、お金のやり取りはありません。ただ、儲かるビジネスを丸ごと譲渡するとなると、売る側は将来の儲け(これを「のれん」代と言います)を請求することもあります。

しかし、事業承継においては、創業家はそのような「のれん」代を社員に請求することは稀です。

つまり、引き継ぐ財産と債務を同額にして引き継げば、利益は互いに発生しないため、消費税以外の税負担も発生しないということです。

事業譲渡は全ての取引関係がリセットされる

この方法は、社員による事業承継における決定打になるように見えますよね。ところが、大きな問題が潜んでいます。

お客さんも一緒に譲渡と言っても、お客さんとの関係はこちらがOKでも、いったん終了してから、再契約となります。最悪お客さんが全て逃げてしまうこともあり得ます。

したがって、事業譲渡において、個別の契約が全て引き継がれる方法を採用しなければ、安心な事業承継が実現できなくなります。

この問題を一発で解決する手法を説明した投稿「のれん分けによる事業承継」も参照してください。