
この連絡を受けたとき、多くの経営者がまず考えるのは、「急いで後任者を採用しなければならない」ということではないでしょうか。
しかし、経理担当者の退職は、単なる欠員の問題ではありません。請求、入金確認、支払、給与計算、会計処理、納税、資金繰りの把握など、会社のお金と情報が一人に集中していた場合、退職をきっかけに会社の弱点が一気に表面化します。
この記事で分かること
- 経理担当者の退職前に、社長が最初に整理すべきこと
- 会社のお金と情報を止めないための確認項目
- 退職を、経理体制と事業承継を見直す機会に変える方法
特に事業承継を考えている会社では注意が必要です。後継者に会社を引き継ぐ前に、経理が属人化したままでは、会社の実態や資金の流れを十分に把握できず、安心して経営を引き継ぐことができません。
大切なのは、後任者を探すことだけではなく、退職までの期間を「会社のお金の流れと業務の仕組みを見直す機会」に変えることです。
1.経理担当者が担っている仕事を、すべて書き出す
最初に行うべきことは、「その担当者が何をしているのか」を見える形にすることです。
経理業務は、会計入力だけではありません。請求書の発行、売掛金の入金確認、買掛金の支払、給与計算、経費精算、銀行対応、年末調整、税理士とのやり取りなど、多くの業務が含まれます。
まずは、退職する担当者と一緒に、業務の名称、実施時期、使用している帳票やソフト、確認・承認する人、困ったときの連絡先を一覧にします。
この一覧がないまま後任者へ引き継ぐと、「何をすればよいか」だけでなく、「そもそもどのような業務が存在するか」が分からない状態になります。
2.会計データ・銀行・各種システムへのアクセスを確認する
会計ソフト、インターネットバンキング、給与計算ソフト、請求書発行システム、電子申告、クラウドストレージなど、現在の経理業務では多くのシステムが使われています。
IDやパスワードが担当者個人のメールアドレスや携帯電話にひも付いている場合、退職後にログインできなくなるおそれがあります。また、銀行振込の権限が一人に集中している場合には、不正防止の観点からも見直しが必要です。
単にパスワードを聞くだけではなく、誰が管理者となり、誰が入力し、誰が承認するのかを決めましょう。退職を機に、個人任せだった情報管理を、会社の管理体制へ戻すことが大切です。
3.支払い・給与・入金確認が止まらないかを確認する
経理業務で最も止めてはいけないのは、お金の流れです。
仕入先への支払い、従業員の給与、社会保険料や税金の納付、家賃やリース料の引落しが遅れれば、会社の信用に影響します。一方で、売掛金の入金確認ができなければ、資金繰りの見通しも立ちません。
退職日までに、少なくとも今後3か月程度の入金予定と支払予定を一覧にしましょう。支払日、請求書発行の時期、未回収の売掛金、借入金の返済予定を社長自身が把握できる状態にすることが、最初の資金繰り対策です。
4.月次決算が、いつ・どのように完成しているかを確認する
経理担当者が一人で長く勤務している会社では、試算表ができるまでの過程が見えなくなっていることがあります。
後継者が会社を引き継ぐときに必要なのは、単に決算書を読むことではありません。売上、粗利、人件費、資金残高などの数字を、いつ確認し、どのように経営判断へ使うのかが重要です。
月次試算表がいつ完成しているか、社長はどの数字を確認しているか、在庫や未収金に不自然な残高がないかを確認しましょう。経理の引継ぎを、入力作業だけでなく「経営数字をどう使うか」の引継ぎにする必要があります。
5.給与・社会保険・年末調整など、期限のある業務を整理する
給与計算、社会保険、労働保険、源泉所得税、年末調整、法定調書などは、期限を過ぎると会社や従業員に直接影響します。
毎月の給与計算だけでなく、賞与の時期、社会保険の算定、年末調整など、年に一度の業務も忘れてはいけません。
退職する担当者から、年間業務カレンダーを作ってもらうことをおすすめします。いつ、誰から資料を集め、どこへ提出し、誰が確認するのか。この流れを一枚にしておけば、後任者が未経験であっても必要な準備を早めに始められます。
6.社長しか知らない判断と、担当者しか知らない判断を分ける
経理が属人化する会社では、「社長しか分からないこと」と「経理担当者しか知らないこと」が混在している場合があります。
たとえば、特定の取引先への支払条件、役員への立替金、借入金の返済方針、税理士に確認している処理などです。このような判断が口頭だけで引き継がれていると、後任者は迷い、社長も必要な判断を迅速に行えません。
支払いの承認ルール、経費精算のルール、請求・値引きの判断者、現金の取扱い、専門家への連絡窓口など、会社としてのルールにできるものは文書化しましょう。
7.後任者の採用だけでなく、今後の経理体制を決める
最後に考えるべきことは、「誰を採用するか」ではなく、「これから会社としてどのような経理体制をつくるか」です。
すべてを社内で担うのか。請求や支払などを社内に残し、会計入力、給与計算、資金繰り表の作成を外部へ委託するのか。経理担当者を複数名体制にするのか。会社の規模、後継者の関与度合いによって、最適な形は異なります。
特に事業承継を予定している会社では、後継者が数字を見て判断できる仕組みを残すことが重要です。経理担当者の退職を機に、業務を整理し、数字の見える化と情報共有を進めることは、将来の承継準備にもつながります。
まとめ:経理担当者の退職は、会社の仕組みを見直す機会になる
経理担当者の退職は、会社にとって不安な出来事です。しかし、業務を棚卸しし、資金の流れを見える化し、誰が何を判断するのかを整理すれば、会社をより強くする機会にもなります。
後任者を採用することだけを急ぐのではなく、「この会社は、誰が担当しても経理が回る仕組みになっているか」という視点で見直してみてください。
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