経理担当者の不正はなぜ起きる?一人に権限を集中させない経理アウトソーシングの考え方

経理担当者による不正というと、特別な悪意を持った人が、複数人で共謀して行うものだと思われがちです。
しかし、実際に中小企業の経理を長く見ていると、そうとは限りません。
むしろ多いのは、一人の経理担当者に権限が集中し、その人の仕事を誰もチェックしていないという状態です。
「その人しか分からない」「その人しか触れない」「その人しか確認しない」という仕事が増えていくと、不正のリスクは一気に高まります。
本人が最初から不正をしようと思っていたかどうかではありません。
不正ができてしまう環境を会社がつくっていること自体が問題なのです。
中小企業では、経理担当者に権限が集中しやすい
中小企業では、経理担当者が一人というケースも珍しくありません。
その一人が、
- 銀行口座を管理する
- 通帳を保管する
- 印鑑を保管する
- 支払データを作成する
- 送金する
- 会計ソフトへ入力する
- 残高を確認する
- 請求書を整理する
ところまで全部担当していることがあります。
会社から見れば、「一人で全部やってくれるので助かる」と感じるかもしれません。
しかし、管理の面から見ると非常に危険です。
「作る人」「承認する人」「実行する人」「記録する人」が、すべて同じ人になっている状態です。
基本中の基本は「通帳と印鑑を分ける」こと
今では以前より少なくなりましたが、会社によっては、通帳の保管と銀行印の保管を同じ人が行っているケースがあります。
これは内部統制の基本から見れば、かなり危険な状態です。
通帳と印鑑を同じ人が持っていれば、その人一人で預金を動かすことができます。
もちろん、現在はインターネットバンキングが中心になっている会社も多いため、現物の通帳と印鑑だけを分ければよいという話ではありません。
ファームバンキングやインターネットバンキングであれば、
- 振込データを作成する人
- 内容を確認する人
- 最終承認する人
を分ける必要があります。
三尾会計事務所でも経理アウトソーシングを受託する際、送金データの作成準備は行っても、最終承認権限や印鑑の保管までは受けません。
なぜなら、そこまで一つの側に集中すると、チェック機能そのものがなくなるからです。
支払いをする人と、発注する人を分ける
不正は銀行振込だけで起こるわけではありません。
以前あったケースでは、経理担当者が通信販売会社へ勝手に商品を注文し、会社の一括決済で支払いを行い、商品は自宅へ届けていました。
この場合の問題は、
注文する人と、支払いを処理する人が同じだった ことです。
商品を注文し、請求を受け取り、自分で支払い処理までできる。
これでは、会社側が気づかないまま私的な購入が続く可能性があります。
- 発注する人
- 納品を確認する人
- 支払データを作成する人
- 支払を承認する人
できる限り、これらを分けることが重要です。
経理アウトソーシングを利用する場合も、この考え方は同じです。
三尾会計事務所側で発注そのものを行うのではなく、請求内容や支払予定を整理し、承認できる状態まで準備する。
最終的な承認は会社側で行う。
この役割分担によって、経理担当者一人に権限が集中することを防ぎます。
残高確認書まで偽造されたケース
以前、非常に印象に残った不正がありました。
経理責任者が銀行からの借入金を横領し、その事実を隠すために銀行の残高確認書を細工していたケースです。
実際の残高確認書の数字部分を切り抜き、別の数字を貼り付ける。
そして、その偽造した残高確認書を会計事務所にも提示し、帳簿上の残高と合わせていました。
銀行から融資を受けた事実そのものを隠し、帳簿上もつじつまが合っているように見せていたのです。
ここまでいくと、単なる入力ミスや管理不足ではありません。
しかし、このような不正も、最初から一度に大きく行われるとは限りません。
小さな操作が見過ごされ、誰も確認しない状態が続くことで、徐々に大胆になっていくことがあります。
「信頼しているから任せる」は危険
中小企業では、
「この人は長年勤めているから大丈夫」
「家族同然だから信用している」
「今まで問題がなかったから大丈夫」
という理由で、経理を一人に任せきっているケースがあります。
もちろん、社員を信頼することは大切です。
しかし、信頼とチェックは別の話です。
むしろ、真面目な社員ほど、チェック体制がある方が安心して仕事ができます。
「自分だけが全部管理している」という状態は、その人自身にとっても大きな負担です。
経理アウトソーシングは「人手不足対策」だけではない
経理アウトソーシングというと、
「経理担当者が辞めた」
「採用できない」
「入力作業を外に出したい」
という理由で利用されることが多いです。
もちろん、それも大きな役割です。
しかし、私たちはそれだけではないと考えています。
経理アウトソーシングは、会社の内部統制を補う仕組みでもあります。
例えば、
- 支払予定を第三者が確認する
- 銀行残高を定期的に確認する
- 会計帳簿と実際の入出金を照合する
- 異常な支払いがないかを見る
- 未収金・未払金を確認する
- 毎月の資金繰りを整理する
といった作業が入ることで、会社の中に自然とチェックポイントが増えていきます。
「誰も見ていない仕事」をなくす
不正防止で大切なのは、社員を疑うことではありません。
誰も見ていない仕事をつくらないことです。
経理の仕事は、お金を扱う以上、どうしても不正リスクがあります。
だからこそ、
- 誰が入力したか
- 誰が確認したか
- 誰が承認したか
- 誰が実行したか
が分かる仕組みにしておく必要があります。
それは社員を疑うためではなく、会社と社員の双方を守るための仕組みです。
中小企業では不正が起きる前提で仕組みをつくる
少人数の会社では、すべての業務を完全に分業することは難しいでしょう。
一人の経理担当者が複数の仕事を兼務することもあります。
だからこそ、
- 発注と支払い
- 振込データ作成と最終承認
- 通帳と印鑑の管理
- 記帳と残高確認
- 経理担当者の処理と第三者の確認
という考え方が必要です。
完全な内部統制制度をつくる必要はありません。
まずは「一人ですべて完結している仕事はどこか」を見つけるだけでも、大きな改善になります。
まとめ|経理アウトソーシングは「経理を外に出す」だけではない
中小企業では、人員が限られているため、一人の経理担当者に仕事が集中しやすくなります。
その結果、
- 発注も支払いも同じ人
- 送金準備も承認も同じ人
- 通帳も印鑑も同じ人
- 記帳も残高確認も同じ人
という状態が生まれます。
そして、誰もチェックしない仕事が増えていく。
不正は、特別な人だけが起こすものではありません。
不正ができてしまう仕組みを放置している会社で起こりやすいのです。
経理アウトソーシングの役割は、入力や支払いを代行することだけではありません。
会社の中に第三者の目を入れ、権限を分け、経理が一人で完結しない仕組みをつくること。
それも経理アウトソーシングの大きな価値だと考えています。

