納税が申告期限ギリギリにならない会計
皆さんの会社が、法人税や消費税の申告期限ギリギリにならないと納税額が分からない、なんてことありませんか?
実は、会社の決算の締め切から、法人税や消費税の申告と納税まで2ヶ月の猶予があります。
それでも、税額が納税期限のできるだけ一か月前までにわかれば、余裕をもって納税資金の準備ができます。
また、毎月提供される試算表をみて、先月は黒字、今月は大幅赤字なんて意味不明な結果を見て、混乱することもありますよね。
この投稿は、社長が毎月の試算表で一喜一憂することなく、納税額をコントロールできるようになるための対処法を解説します。
あわせて、必要な年間営業利益が容易に算出できる裏技もご紹介しますので、最後までお読みください。
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申告期限ギリギリにならないと税額が決まらない理由
会社の年間負担する税額は、法人税は会社の営業利益、消費税は年間取引高によって変動します。
私たちが、今から年度末までの取引高と利益を、正確に予想できれば、年度末に納付する消費税額や法人税などが予測可能となります。
ところが、多くの会社では、毎月の提出された試算表を見て一喜一憂するだけで、年度末の売上高、営業利益と納税額を予想することができていません。
さらに、年度末まで、過去12か月の間に処理の誤りや、解釈の誤りも、情報の未伝達などが放置されていることもあります。
年度が明けて申告書を作る段になり、初めてそれらを処理することもあるでしょう。
そうすると、必然的に、2ヶ月という申告期限までの猶予期間は、あっという間に過ぎてしまうのです。
これらすべて、段取りが悪いことが、申告期限ギリギリの原因です。
※この投稿で税金との関係で、稼ぎ出す利益を「営業利益」と言っています。これは、営業利益が、会社が稼ぎ出す目標とするべき利益で、また、会社でコントロールしなければならないからです。
税額をできるだけ早く算出する方法として、次のようなことが言われています。
販売管理費の予算化により年間の金額の振れ幅を少なくする
年間支出する給与や家賃、保険料などは、行き当たりばったりでなく、おおむねその支出額は事前に分かります。
また、それらの支出については、年間これくらい支出するものとして決めているはずです。
つまり、年間に支出する項目ごとに、予算額を決めて、月別に割り振れば、少なくとも、年間の販売管理費の額は、年度の初めにはわかるのです。
年間負担額が分かっている費用の引当金処理
減価償却や賞与という年に数回発生する費用を12か月で割り振るというのも参考になります。
これらの支出や費用項目は、ある月にはゼロ円、発生するときには、数百万というように、試算表の数字が大きくぶれます。
したがって、毎月試算表で売上高と営業利益を確認するのであれば、このような支出や費用を、引当金処理をし、年間総額の12分の1を毎月に割り振ることです。
昨年の売上との増減を予想する
安定した販売網や顧客を数多く持つ企業であれば、おおよそ昨年と同様の月間売上高を予測できるでしょう。
その予測される売上高を、毎月仮計上することで、毎月の試算表は早期に作成することができます。
ただ、確定した段階で実績額に洗い替えることを忘れてはいけません。
在庫や債権債務の正しい計算
月次や年間の利益が大きく増減する理由の大半は、在庫金額と債権債務の確定の遅れです。
そこで、まず債権債務の確定についは、毎月その残高を、相手先別の内訳を正確に作成することです。これを継続していると、年度末には不明な債権債務はなくなります。その結果、年度末1週間程度で、その年の決算数字は固まります。
また、在庫は、年に一度棚卸をしているだけでは、年度末に在庫計算に時間がかかります。年度末の正確な数字は後にして、在庫金額の概算を計算することが先決です。
風任せの経営からの脱却に必要な財務データ
毎月の試算表で、それまでの結果だけを知り満足しているのは、会社自らが必要な売上や営業利益を達成するという考えが不足しているからなのです。
今年は風が吹いたから儲かった、だけど来年は儲かるか分からない、というのは会社経営ではありません。
達成すべき売上高と営業利益に根拠を持つこと。そして、そこに向かって、毎月進捗状況を確認し、行動を修正する。それを社長が社員に伝えるべきなのです。
- 設備投資をしていいものか
- 在庫の廃棄や債権放棄は検討すべきか
- 保険などの税金対策をとるべきか
- 不足する売上にどう対処するべきか
- 賞与や昇給、採用にどう対処するべきか
などの結論を毎月出し、実行するべきですなのです。
必要とする売上高と営業利益の達成状況を毎月確認
会社を維持するための固定費を回収する
会社も年数を重ねると、設備も陣容も拡大します。さらに規模が大きくなった会社を維持管理するための費用も年々増加していきます。
そして、売上が減少しても、これらに要するコストは、滅多に減ることはありません。
これらのコストのことを固定費といい、この固定費をいかに売上でカバーするかが、利益を出せるか否かの分かれ道になります。
年度初めから固定費はほぼ決まっている
会社がこなさなければならない売上は、年度末を待たなくても、既に年初から決まっていることになります。
年間の固定費には、製造に関わる人件費、減価償却費、諸経費と販売運賃を除く販売管理費などは毎期同様に発生します。
これら固定費の総額を、年間の売上でカバーするにはどうするかということが、社内で認識されなければならないのです。
限界利益という利益
売上が即ち固定費をカバーする利益になるわけではありません。売上を上げるためには、材料の仕入れコストや加工する協力会社の手助けも必要です。
ここで発生するコストのことを変動費といい、固定費と違い売上がなければ発生することはありません。
つまり、年間の固定費をカバーするために、年間の売上から変動費である材料代や外注費を差し引いた利益(これを「限界利益」といいます)を、いくら稼がなければならないかが重要なのです。
出たとこ勝負の決算から必達目標に近付ける決算
会社が抱える固定費、これがなければ会社経営はとても楽なものになります。しかし、現実はどの会社も年間、人件費をはじめ多額の固定費が発生しています。
そして、年間の限界利益(=売上―変動)で固定費を負担し、残れば営業利益を出すことができるということです。
つまり、年間の限界利益から、既に分かっている年間の固定費額を差し引けば、会社は営業利益を出すことが可能となるのです。
つまり、必達目標の営業利益を出したければ、必要な営業利益+固定費と同額の限界利益を稼がなければならないということです。
そのためには、月次で出たとこ勝負の決算をするわけにはいかないということになります。
年度末の売上と営業利益を予測する方法
本日現在の年間売上高がどうなっているかは簡単にわかります。つまり、昨日までの売上高に今後予定されている売上(注文の残高)を加えればいいのです。
しかし、目標とする売上には足りませんよね。
そうです、その現実を知ったうえで、足りない売上につき、どうやって新たな注文を取るのかを考えるのが営業の役目です。
もちろん何でも注文を取ればいいというものではありません。
売上からそれに必要な材料費や外注費などを差し引いた限界利益を積み重ねて、固定費を上回らなければなります。
つまり、目標となる営業利益から逆算し、必要な売上、限界利益率(=限界利益÷売上)を確保するということになります。
試算表による一喜一憂の月次決算から卒業した事例
新進気鋭のシステム開発業、一気に先を読めるようになる
【課題】
会計ソフトで、自社で会計処理を行っていたが、毎月試算表で月次の数字を見るだけだった。
受注・納品・売上計上・回収のタイミングがバラバラで、月次の会計処理では追い付かなかった。
結局、決算をしめて初めて売上と営業利益が分かる状態だった。
【対策】
会計事務所の指導の下、受注した仕事、着手した仕事、それぞれの納期を整理した。
そのうえで、年度末までに完了する仕事の売上と限界利益、同じく次年度に繰り越すものを整理し、年間の限界利益予想額を算出。
そして、前期の決算を参考に、今期の固定費見込みを確定したうえで、年度末の営業利益を、年度の6ヶ月目程度で把握できるようにした。
【その効果】
毎期、ほぼ6カ月目には営業利益予想が固まるので、年度末にバタバタと決算対策をする必要がなくなった。
また、早期に固定費の内容の精査は終了しており、また、変動費と売上高の内容も把握できているので、年度の法人税と消費税などの申告も、早期に終了している。
企業再生計画の作成と実行のため会計手法を大きく変えた
【課題】
金融機関に借入の返済猶予を願い出るため、会計事務所の指導の下、企業再生計画を作成し、大幅な返済猶予がなされた。
しかし、定期的に月次試算表と資金繰り表を提出する必要が生じた。
また設備投資についても、金融機関との協議が必要となり、従来の会計の方法では対応できなくなった。
【対策】
月次の処理は従前と同じく、毎月の会計データを会計ソフトで処理し、試算表を作成するだけであった。
しかし、それだけでは、今後返済猶予してもらった、利息と元金の返済が、可能か否かが把握しきれなかった。
そこで、毎月の新規案件を積み上げ、限界利益と固定費を毎月チェックすることで、早期の問題点把握ができるようになった。
【その効果】
今までは、試算表だけで利益を管理していたため、年間のキャッシュフローが見えていなかった。
金融機関にも常にその状況を説明し、資金ショートにならないよう、リアルタイムでキャッシュフローが読めるようになった。
まとめ
毎月の試算表は過去の実績を表しているだけ。
したがって、試算表では目標を達成するための経営判断はできないのです。
年間の固定費を年初に予定し、その固定費を支払ってなお目標の営業利益が出せる、経営の舵取りが社長には求められます。
そのためには、試算表に頼らず、受注実績で確定している今期の売上高と、目標売上高のギャップがどれくらいあるかを毎月見続けることが大切なのです。