社員後継者への「のれん分け」で事業承継|会社分割を活用した解決事例

小規模な電気工事会社の創業者から、 「長年一緒に働いてきた社員に事業を引き継がせたい」 というご相談がありました。

ただし、会社をそのまま渡せばよいという話ではありません。 創業者が長年築いてきた得意先との関係、仕事の流れ、社員、設備、 そして会社に残す資産や負債をどう整理するか。

そこで今回、顧客には分かりやすく 「社員への、のれん分け」 と説明しながら、実務上は会社分割を一つの手段として、 創業者側と後継者側の双方が納得できる承継方法を検討しました。

事業承継は、「会社を渡すこと」が目的ではありません。
後継者が引き継いだあとも、無理なく経営を続けられる形に整えて渡すことが重要です。

1.相談のきっかけ

相談者は、小規模な電気工事会社を長年経営してきた創業者でした。

年齢を重ねる中で、そろそろ経営を次の世代へ引き継ぎたい。 一方、親族ではなく、長年会社で働いてきた社員を後継者としたいと考えていました。

社員後継者は現場や得意先を理解しており、 事業を任せる相手としては適任でした。

しかし、 「会社をどのような形で引き継がせればよいのか」 という具体的な方法が決まっていませんでした。

2.相談者の状況

  • 創業者が長年経営してきた電気工事会社
  • 後継者候補は長年勤務してきた社員
  • 得意先や営業基盤はすでに存在している
  • 会社には後継者へ必ずしも引き継ぐ必要のない資産もある
  • 後継者に過度な資金負担を負わせたくない
  • 創業者側にも、長年築いてきた事業価値をどう整理するかという問題がある

つまり、 単純に会社の株式を後継者へ移せば終わる問題ではありませんでした。

3.表面的な相談

最初の相談は、非常にシンプルなものでした。

「社員に会社を引き継いでもらいたい。どのような方法がありますか」

しかし、実際に数字と会社の中身を確認すると、 問題は「誰を社長にするか」だけではありませんでした。

4.本当の問題

本当の問題は、 後継者が引き継いだあとに、その会社を無理なく経営できるか という点でした。

会社を丸ごと引き継ぐと、 後継者にとって必要のない資産や負担まで一緒に承継する可能性があります。

一方で、創業者にとっては、 何十年もかけて築いてきた得意先、信用、仕事の流れなどにも価値があります。

事業承継で整理すべきこと

  • 後継者に何を引き継ぐのか
  • 何を旧会社に残すのか
  • 後継会社が資金不足にならないか
  • 得意先との関係をどう引き継ぐか
  • 創業者が築いてきた事業価値をどう考えるか
  • 承継後も事業が継続できる収益構造になっているか

5.提案・判断――「のれん分け」という考え方

そこで、創業者と後継者に対して、 難しい制度説明から入るのではなく、 まず「のれん分けに近い形で事業を引き継ぐ」 という考え方をご説明しました。

昔ののれん分けでは、 長年働いた人が、店の信用や技術、商売の仕組みを受け継ぎ、 独立して事業を続けていきました。

今回も、その考え方に近いものでした。

「会社をそのまま渡す」のではなく、
「後継者が経営しやすい事業の形を作って渡す」。

実務上は会社分割を活用する方向で、 旧会社に残すもの、新しい会社へ引き継ぐものを整理していきました。

なお、会社分割その他の法的手続については、 必要に応じて外部専門家と連携しながら進めることを前提としています。 当事務所では、主として財務・税務・事業承継・経営面から、 承継後の会社が無理なく経営できる条件を整理しました。

社員への事業承継も、方法は一つではありません

株式をそのまま譲る方法だけでなく、 会社の中身を整理してから引き継ぐ方法もあります。

今の状況を相談する

6.実際に行ったこと

まず行ったのは、会社を分けたあとの姿を数字で確認することでした。

分割後の各社について、 貸借対照表・損益計算書を作成し、 旧会社と後継会社の双方が無理のない財務状態になるかを確認しました。

財務内容の整理

資産・負債を確認し、どこまで後継会社へ引き継ぐかを整理。

得意先・営業基盤の確認

主要得意先や今後の売上見込みなどを確認。

経費構造の確認

承継後も利益が残る会社になるかを検討。

資金繰りの確認

承継後の会社が資金難にならない条件を確認。

さらに、社員、得意先、金融機関その他の関係者への移行についても、 承継のスケジュールの中で整理しました。

7.創業者と後継者が納得できた承継条件

次に問題となったのが、 創業者が長年築いてきた事業の価値をどう考えるかでした。

後継者は、ゼロから会社を始めるわけではありません。 すでに存在する得意先、仕事の流れ、信用、営業基盤などを引き継ぐことになります。

そこで、承継する事業内容、将来の収益力、後継者側の資金負担などを総合的に整理しました。

最終的に、約3,000万円を一定期間にわたって支払う方向で、 双方が納得できる承継条件を整理することができました。

ここで重要なのは、 単に「3,000万円」という価格を決めたことではありません。

創業者にとって納得でき、 なおかつ後継者の会社経営を圧迫しない条件でなければ、 事業承継そのものが失敗してしまいます。

8.その後――事業承継は、新社長の経営のスタート

事業承継は、契約や登記が終われば完成するものではありません。

後継者にとっては、 そこからが経営者としてのスタートです。

今回の承継でも、 後継会社が経営難・資金難にならない財務状態を作り、 営業力の強化、経費の見直し、将来計画まで含めて考えることを重視しました。

会社を「渡す」ことより、
渡したあとに「続く会社」にすること。

これが、社員後継者への事業承継では特に重要だと考えています。

社員への事業承継を考えている経営者へ

親族に後継者がいなくても、 長年会社を支えてきた社員が後継者になるケースがあります。

その場合、 「株式をどうするか」だけから考えるのではなく、 まず、 後継者が引き継いだあとに経営できる会社になっているか を確認する必要があります。

会社分割、株式の承継、資産の整理など、 使える方法は会社ごとに異なります。

大切なのは、方法から考えるのではなく、 「創業者と後継者の双方が、どのような状態になれば承継成功と言えるのか」 から考えることです。

社員への事業承継・会社分割を含む承継方法についてご相談ください

会社の財務状況、後継者の負担、創業者側の希望を整理しながら、 その会社に合った事業承継の形を一緒に考えます。