店舗の事業譲渡を、「契約書の確認」から「事業を継続できる契約設計」へ転換した事例

この事例から学べること
事業譲渡契約は、契約書を完成させることが目的ではありません。譲渡後も事業が円滑に継続できる内容になっているかを確認することが重要です。
ご相談内容
複数店舗を運営する会社が、グループ内の一店舗を地方都市の事業者へ譲渡することになり、提示された事業譲渡契約書の内容に問題がないかというご相談をいただきました。
特に問題となったのが、従業員の退職に関する損害賠償条項でした。
契約書には、
「現在在籍するスタッフが6か月以内に退職した場合には、譲渡代金を上限として損害賠償を請求できる」
という趣旨の条項が盛り込まれていました。
相談者としては、この条件をそのまま受け入れてよいのか、事業の実態を踏まえて検討したいというご相談でした。
ご相談時の状況
譲渡対象となった店舗は、地域で一定の認知度があり、顧客基盤も比較的安定していました。
もちろん、店舗運営において鍼灸師などのスタッフは重要な存在です。
しかし、仮に現在のスタッフが退職したとしても、新たな有資格者を採用することができれば、店舗としての営業を継続できる可能性があります。
そのため、単純に「スタッフが退職した」という事実だけをもって、譲渡代金全額に相当する損害が生じたとする契約には、事業の実態とのずれがあると考えられました。
本当の課題
当初のご相談は、
「この契約書の内容を受け入れても大丈夫か」
というものでした。
しかし、本当に確認すべきなのは、契約書の文章そのものだけではありません。
重要なのは、
その契約条件が、実際の事業価値や譲渡後の経営に合っているか
ということでした。
スタッフが一人退職したからといって、店舗の価値がそのまま失われるわけではありません。
一方で、必要な人員を確保できず営業そのものが難しくなれば、事業価値に大きな影響が生じます。
つまり、契約で守るべきものは単なる「現在の従業員の在籍」ではなく、
「譲渡した店舗が事業として継続できる状態」
であると整理しました。
意思決定のために整理したこと
そこで、
「スタッフが退職したら損害賠償」
という考え方から、
「退職によって実際に事業価値がどの程度低下したのか」
という考え方へ視点を変えることを提案しました。
例えば、3名のスタッフが退職しても、その後3名の有資格者を採用できれば、店舗運営に対する影響は限定的です。
反対に、退職者を補充できず必要な人員を確保できなければ、店舗運営への影響は大きくなります。
そこで、単純な退職者数ではなく、
採用による補充を考慮した「人員の純減」や、実際の店舗運営への影響を基準として損害を考える
という方向で、契約条件を見直すことを提案しました。
また、損害賠償額についても、直ちに譲渡代金全額を上限とするのではなく、実際に生じる影響との関係を考慮した合理的な上限を設定するなど、双方が納得できる条件で交渉する必要があると助言しました。
契約だけでなく「譲渡後」を確認する
さらに、事業譲渡では契約書に署名すれば手続きが完了するわけではありません。
譲渡した翌日から、実際に店舗を運営できる状態になっていることが重要です。
そこで、契約締結前に、譲渡後の事業運営に必要となる事項をチェックリストとして整理することを提案しました。
- 店舗の賃貸借契約をどのように引き継ぐか
- 従業員の雇用関係をどのように取り扱うか
- 取引先への通知や契約変更は必要か
- 既存顧客への案内をどのように行うか
- 各種許認可・届出に必要な手続きはないか
- 店舗設備や備品をどこまで譲渡対象とするか
- 売掛金・未払金などをどちらが引き継ぐか
- 譲渡日以降の運営責任をどこで切り替えるか
こうした事項を事前に整理しておくことで、契約締結後のトラブルを減らし、スムーズな事業移行につなげることができます。
実施した専門的支援
- 事業譲渡契約書の内容確認
- 損害賠償条項のリスク分析
- 従業員退職が事業価値へ与える影響の整理
- 事業実態を踏まえた契約条件の見直し提案
- 損害賠償額・上限設定についての論点整理
- 契約交渉における検討事項の整理
- 譲渡後の事業運営に必要な確認事項の整理
- 事業譲渡後の移行を見据えたチェックリスト作成の助言
結果
相談者は、提示された契約条項をそのまま受け入れるのではなく、実際の事業価値や店舗運営への影響を基準として契約条件を考える必要があることを理解されました。
また、事業譲渡は契約書を締結して終了するものではなく、譲渡後に店舗が円滑に営業を続けられるところまで準備する必要があることも共有しました。
その結果、損害賠償条件の見直しだけでなく、雇用、賃貸借契約、取引先、顧客対応、各種手続きなどについても事前に整理し、双方で確認したうえで事業譲渡を進める方向となりました。
三尾会計事務所からのメッセージ
事業譲渡やM&Aでは、どうしても「契約書に何と書いてあるか」に目が向きます。
もちろん、契約内容を確認することは重要です。しかし、契約書はゴールではありません。
契約した翌日から、事業がきちんと動くこと。
そのために契約があります。
三尾会計事務所では、契約条件や税務・会計上の問題だけを見るのではなく、
「その契約によって、経営者が実現したい事業の未来を本当に実現できるのか」
という視点から、事業承継・事業譲渡を一緒に考えます。
このようなお悩みはありませんか?
- 事業譲渡を提案されたが、契約内容が適切なのか分からない
- M&Aの契約条件について第三者の意見を聞きたい
- 従業員の引継ぎをどのように進めればよいか分からない
- 譲渡価格だけでなく、譲渡後のトラブルが心配
- 賃貸借契約や取引先との契約をどう引き継ぐか整理したい
- 事業譲渡後も店舗や事業を安定して継続させたい
- 契約・税務・会計をまとめて検討したい
- 事業承継の方法として第三者への事業譲渡も検討している
一つでも当てはまる場合は、契約書を締結する前に、「譲渡後にどのような会社・事業にしたいのか」というところから整理してみませんか。
まずはお気軽にご相談ください
事業譲渡やM&Aでは、契約を締結してからではなく、
「この条件で本当に大丈夫だろうか」
と感じた段階で整理しておくことが重要です。
三尾会計事務所では、契約・税務・会計だけでなく、
譲渡後も事業が継続できる仕組みづくりまでご支援します。
対面・オンライン(Zoom)・メール・お電話でご相談いただけます。


