建設業の利益はなぜ決算直前まで分からないのか――受注残から年間利益を予測する方法

建設業・利益予測・決算対策・事業承継
建設業では、受注した時点、工事を始めた時点、請求した時点、完成して完工高を計上する時点が一致しません。そのため、現在の試算表だけを見ても、年度末の利益や納税額を正確に予測することが難しい場合があります。しかし、受注残、完成予定、工事別利益、固定費を毎月整理すれば、決算前から年間利益を見通せるようになります。
完工高が増えているのに、利益が分からない
「受注は順調に増えている。しかし、今期の利益がいくらになるのかは、決算が近づかなければ分からない」
建設会社の経営者から、このような話を伺うことがあります。
営業会議では受注額を確認し、工事部門では現場の進捗を管理し、経理部門では請求書や支払を会計システムへ入力しています。それぞれの担当者は必要な仕事をしているにもかかわらず、年度末の利益が見えません。
その原因は、能力や努力の不足ではありません。受注、工事、経理の情報が別々に管理され、年間利益を予測するための一つの資料にまとめられていないことにあります。
建設業で利益を予測するためには、過去の試算表を見るだけでは足りません。現在の受注残と、これから完成する工事の利益を未来の数字として加える必要があります。
なぜ建設業の利益予測は難しいのか
一般的な商品の販売であれば、商品を販売した時点で売上高と原価を対応させやすい場合があります。一方、建設業では、受注から着工、完成、引渡しまで数か月、場合によっては複数年度にわたることがあります。
受注額が大きくても、決算日までに完成しなければ、その全額が今期の完工高になるとは限りません。反対に、以前から進めていた工事が今期中に完成すれば、受注時期が前年度でも今期の利益に大きな影響を与えます。
また、工事の途中で材料費や外注費が増加したり、工期が延長されたりすると、受注時に想定した利益が残らないこともあります。
つまり、年間利益を予測するには、完工高だけではなく、次の情報を組み合わせなければなりません。
- 現在までに計上された完工高と利益
- 受注済みで、まだ完成していない工事
- 各工事の完成予定時期
- 工事ごとの予想完工高と予想原価
- 年度末までに発生する人件費などの固定費
- 今後見込まれる新規受注
1.受注残を一覧にする
年間利益予測の出発点は、現在の受注残を一つの一覧表にすることです。
工事名、受注額、着工予定、完成予定、請求条件、現在までの原価、今後発生する予定原価などを整理します。営業部門だけが持っている受注情報や、現場責任者の頭の中にある完成予定を、経理情報と結びつけます。
大切なのは、受注額の合計だけを確認しないことです。受注額が多くても、完成時期が翌年度であれば、今期の完工高や利益には反映されない可能性があります。
「いくら受注したか」に加えて、「その受注がいつ、どれだけの利益になるか」を確認する必要があります。
2.決算日までに完成する工事を予測する
次に、受注残の中から、決算日までに完成する予定の工事を整理します。
この判断は経理担当者だけではできません。現場責任者や工事担当者から、現在の進捗、工期の変更、資材の納入状況、追加工事の有無などを確認する必要があります。
予定どおり完成する工事、翌年度へずれ込む可能性がある工事、新たに受注して年度内に完成する可能性がある工事に分けると、複数の利益予測を作ることができます。
一つの予測だけを正解と考えるのではなく、標準的な予測、慎重な予測、受注が順調に進んだ場合の予測を比較することも有効です。
3.工事ごとの予想利益を確認する
完成予定が分かっても、完工高だけでは年間利益を予測できません。工事ごとの予想原価と利益を確認する必要があります。
材料費、外注費、労務費、現場経費などを見積もり、受注額から差し引いて予想利益を計算します。当初の見積りと現在の予想原価に差がある場合は、その原因を確認します。
資材価格が上昇したのか、追加作業が発生したのか、外注費が増えたのか、見積りに含まれていない工事があったのか。利益率が下がった原因を工事ごとに確認すると、次回の見積りや受注判断にも活用できます。
完工高が大きい工事が、必ずしも会社に大きな利益を残すとは限りません。完工高を追う経営から、工事ごとの利益率を重視する経営へ変えるためにも、この確認が重要です。
4.年度末までの固定費を加える
工事ごとの利益を合計しただけでは、会社全体の利益にはなりません。
役員報酬、給与、法定福利費、家賃、リース料、保険料、減価償却費など、年度末までに発生する固定費を予測し、工事から得られる利益から差し引きます。
借入金の利息、固定資産の売却、補助金など、営業外の損益や特別な取引が見込まれる場合も反映します。
これにより、受注額や完成工事高ではなく、会社全体として年度末にどれだけの利益が残るのかが見えるようになります。
5.予測を毎月洗い替える
年間利益予測は、一度作成すれば終わりというものではありません。
新規受注があれば追加し、完成時期が変われば年度を修正し、原価が増えれば利益率を見直します。毎月の実績と予測との差を確認し、年度末までの見通しを更新します。
この作業を毎月続けることで、決算のおおむね6か月前には、年度末の利益と課税所得の範囲が見えるようになります。
早い段階で課税所得が予測できれば、法人税・消費税の納税見込額を計算し、必要な資金を準備できます。設備投資や修繕、借入金の返済などについても、資金繰りと税務の両面から検討できます。
決算直前になって慌てて対策を探すのではなく、会社に本当に必要な支出や投資を、時間をかけて判断できるようになります。
利益予測は、税金を計算するためだけの資料ではない
年間利益予測の本当の価値は、納税額が早く分かることだけではありません。どの工事が利益を生み、どの工事で採算が悪化しているのかを確認し、次の受注、見積り、原価管理を変えることにあります。
完工高を追う経営から、利益率を高める経営へ
年間利益が見えない会社では、経営者の関心が観光高に集中しやすくなります。「あといくら受注すれば前年を超えられるか」「完工高目標までいくら足りないか」という会話が中心になります。
しかし、利益予測を始めると、経営会議の内容が変わります。
「この工事は完工高が大きいが、利益率が低い」「この種類の工事は規模が小さくても利益が残る」「追加工事の見積りが適切に請求へ反映されていない」といった、利益を生む構造について議論できるようになります。
完工高を増やすことは重要です。しかし、完工高えても、それ以上に原価や固定費が増えれば、会社に資金は残りません。
受注額だけでなく、完工利益と年間利益率を確認することで、会社は「忙しいのに利益が残らない」という状態から抜け出すことができます。
利益の見える化は、事業承継の準備にもなる
事業承継では、自社株や代表者の地位を後継者へ移すことだけに関心が集まりがちです。しかし、後継者が本当に必要としているのは、会社の利益がどのように生まれているかを判断するための情報です。
先代経営者が経験や感覚で把握していた受注、工事の進捗、利益率、固定費、納税額を資料として共有できれば、後継者も同じ基準で会社の状態を判断できます。
どの工事を受注するべきか、どの利益率を確保するべきか、年間でどれだけの利益と資金を残すべきか。定期的なミーティングでこれらを話し合うこと自体が、後継者育成になります。
事業承継は、会社の株式を移す手続きではなく、経営判断の方法を引き継ぐ取り組みです。毎月の年間利益予測は、そのための共通言語になります。
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