経理担当者が突然退職――月末の支払いも分からない状態から「経理が止まらない会社」をつくった事例

事務所の告知をご覧になった経営者から、経理担当者の退職に伴う経理アウトソーシングについてご相談をいただきました。
面談で最初に伺ったのは、「月末の支払いをどうすればよいのか分からない」という切迫した悩みでした。
社長は営業や事業運営には長年取り組んでこられましたが、請求書の発行、売掛金の管理、外注費の支払い、口座引落、給与計算など、経理の具体的な手続きについては、ほとんど経理担当者に任せていました。
経理担当者がいなくなった瞬間、会社のお金の流れが見えなくなってしまったのです。
この事例のポイント
請求・支払・給与計算などの実務が、一人の担当者に集中していました。
社長自身も支払手続きや請求業務の流れを十分に把握していませんでした。
請求、入金確認、給与、月末支払いを優先順位順に立て直しました。
最終的には、社員も関与しながら経理が継続できる体制へ移行しました。
ご相談のきっかけ
ご相談の直接のきっかけは、経理担当者の退職でした。
社長が最も焦っていたのは、月末の支払いでした。
外注費はいくら支払うのか。どの請求書をいつ振り込むのか。口座から何が自動引落になるのか。社員の給与はいくらで、いつ、どのように振り込むのか。
それまで一人の経理担当者が処理していたため、その担当者がいなくなると、誰も全体像を把握できない状態になっていました。
最初に確認したのは「請求ができているか」
経理が混乱すると、つい支払いのことばかり気になります。
しかし、会社にとって最初に確認すべきなのは、売上金がきちんと入ってくる状態になっているかということです。
そこで、まず請求事務の状況を確認しました。
誰が売上情報を持っているのか、いつ請求書を発行するのかを確認。
どの取引先から、いつ、いくら入金されるのかを整理。
外注費や経費について、支払先・金額・期限を確認。
勤怠情報の入手から給与計算、振込承認までの流れを再構築。
会社運営では、まず入金がなければ支払いもできません。
そのため、請求・入金確認を最優先し、その後に給与、外注費、その他月末支払いという順番で復旧していきました。
最初の2か月は、私たちが実務を引き受けた
経理担当者が突然いなくなった状態では、いきなり社内だけで復旧しようとしても混乱します。
そこで、初月と翌月は、私たちが実際の作業の大半を行いながら、会社のお金の流れを一つずつ把握しました。
ただし、目標は単に経理業務を代行し続けることではありませんでした。
3か月目から社員にも参加してもらう
3か月目からは、社内の社員にも一部の業務を手伝ってもらいました。
具体的には、請求や支払いに必要な情報の収集、請求書の発行、支払準備などです。
ここで重要なのは、これらの仕事の多くには高度な会計知識が必要ないということです。
営業担当者は、どの取引先に何を販売したかを知っています。
購買や現場担当者は、どこから何を仕入れ、どの外注先に仕事を依頼したかを知っています。
つまり、経理担当者がいなくなっても、経理に必要な情報そのものは会社の中に残っています。
請求先、金額、請求時期を明確にしました。
外注費・仕入・経費の情報が集まる仕組みをつくりました。
専門知識を必要としない作業は徐々に社内へ戻しました。
給与計算や年末調整などは、情報管理にも配慮して当事務所が継続しました。
「経理担当者が退職して、何から手を付ければよいか分からない」
「請求や支払いが止まりそうで不安」
という段階からでもご相談いただけます。
給与計算は、あえて社内へ戻さなかった
すべての経理業務を社内へ戻せばよいわけではありません。
給与計算には、社員個人の給与情報が含まれます。
そのため、他の社員に広く情報を開示することは適切ではありません。
給与計算システムへの入力や年末調整などは当事務所が引き継ぎ、最終的な給与額の決定とファームバンキングの承認は社長に行っていただく体制にしました。
業務ごとに、「社内で行う方がよいもの」と「外部へ任せた方がよいもの」を分けることも、経理アウトソーシングでは重要です。
半年後、社長が恐れていたことはほぼ解消
最初に社長が恐れていたのは、請求漏れによる入金不足と、支払い忘れによる取引先への迷惑でした。
業務の流れを整理し、毎月同じ手順で処理できるようにしたことで、半年ほどでその不安はほぼ解消されました。
請求から入金確認までの流れが見えるようになりました。
支払情報を定期的に集め、月末処理を計画的に進められるようになりました。
経理処理への不安から解放され、営業や会社経営に集中できるようになりました。
その後、決算・申告まで一体で支援
毎月の会計処理に必要な元データを当事務所が把握するようになったため、その後は決算・税務申告も受託しました。
その結果、単に「経理が止まらない」だけではなく、毎月の経営数字を社長と共有できるようになりました。
さらに、年度末が近づくと決算予測も行い、利益や税額、資金繰りを事前に確認できるようになりました。
経理の仕事の大半は「社内の情報を集めること」
経理というと、簿記や会計ソフトへの入力を思い浮かべるかもしれません。
しかし、実際の経理業務の大半は、営業、購買、現場、人事など、各部門とのコミュニケーションです。
誰が売上情報を持っているのか。
誰が支払情報を持っているのか。
どの書類を、いつ、誰から集めればよいのか。
そこが分かれば、経理担当者が突然退職しても、多くの場合、経理業務は復旧できます。
経理アウトソーシングの本当の価値は、作業を外へ出すことだけではありません。
経理を属人化から解放し、会社の仕組みに変えることにあります。


