社員へ会社を譲る前に、「一緒に未来を描けるか」を確認した事例

1.この事例から学べること

社員承継では、株式を渡すことよりも、後継予定者が経営者として会社の未来を描き、周囲と共有できる状態をつくることが成功の第一歩です。

本事例では、親族ではない社員への承継を検討する会社が、事業計画・利益・資金繰りを後継予定者と共有するところから準備を始めました。そのうえで、株式譲渡、会社分割、役員退職金などの方法を比較し、将来像に合う承継の進め方を整理した事例です。

2.相談のきっかけ

訪問介護を中心に事業を行う会社の創業者から、「中心となって活躍している社員へ、今後会社を引き継ぎたい。しかし、何から始めればよいのか分からない」というご相談をいただきました。

創業者には親族内の後継者がおらず、長年現場を支え、利用者や従業員からも信頼を得ている社員を次の経営者候補として考えておられました。

3.相談者の状況

相談企業は、創業から約7年で、二十名を超える従業員を抱えるまでに成長していました。地域で必要とされる介護サービスを提供し、今後は安定した利益も期待できる状況にありました。

一方で、会社はようやく債務超過を解消した段階であり、承継を急ぐあまり、会社の将来を十分に整理しないまま株式や役職だけを移すことには不安がありました。

後継予定者にとっても、現場の業務には精通していても、会社全体の利益構造、資金繰り、投資判断、人材配置まで含めた経営判断を担う準備が十分であるとは限りませんでした。

4.表面的な相談

当初のご相談は、「社員へ会社を譲るには、どのような方法を選べばよいか」というものでした。

具体的には、株式をいくらで譲渡するのか、会社の価値をどのように考えるのか、役員退職金を活用できるのか、会社分割という方法は適しているのか、といった点が検討課題となっていました。

しかし、制度や手続きを先に決めても、後継予定者が会社の未来を自分の言葉で説明できず、経営者として判断できる状態になっていなければ、承継は安定しません。

5.本当の問題 ― 三尾会計事務所の診断

私たちは、問題は「どの方法で会社を譲るか」だけではないと考えました。

本当の課題は、後継予定者が経営者として会社の未来を描き、利益・資金・人材・サービス品質について判断できる状態をつくることでした。

社員承継では、親族承継と比べて、後継者が株式を保有していない場合も多くあります。また、従業員や取引先にとっても、「誰が次の経営を担うのか」「会社はこれからどこへ向かうのか」は大きな関心事です。

株式を渡すことはできます。しかし、会社の現状や将来像を理解しないままでは、後継者は日々の経営判断に迷い、周囲も安心してついていくことが難しくなります。

6.提案・判断

そこで、「どう譲るか」ではなく、「後継予定者が経営者になれるか」という視点から準備を始めることをご提案しました。

まず、後継予定者とともに、今後数年間の事業計画、利益計画、キャッシュフロー計画を作成します。会社がどのようなサービスを強みにし、どのように人材を育て、どの程度の利益と資金を確保していくのかを、一緒に考える時間を持つことが重要です。

そのうえで、将来の利益予測や資金計画をもとに会社の事業価値を整理し、株式譲渡、会社分割、役員退職金の活用など、それぞれの方法を比較検討する流れをご提案しました。

制度を先に決めるのではなく、会社の未来を共有したうえで、その未来に合う方法を選ぶことを重視しました。

7.実際に行ったこと

  • 社員承継に必要となる準備事項の整理
  • 後継予定者を交えた事業計画策定の提案
  • 利益計画・キャッシュフロー予測の考え方についての助言
  • 将来予測を踏まえた企業価値の整理
  • 株式譲渡・会社分割・役員退職金の活用方法の比較
  • 各手法のメリット・留意点の説明
  • 後継予定者への段階的な権限移譲についての助言

後継予定者が計画づくりに参加することで、会社の現状と将来の課題を、単なる「社長の問題」ではなく、自らが担う経営課題として考えられるようになります。

8.結果

相談者は、社員へ会社を譲る前に、後継予定者と会社の未来を共有し、経営者として成長できる準備を進めることが最も重要であると理解されました。

また、株式譲渡だけに限定せず、会社分割や役員退職金を含めた複数の選択肢を比較しながら、会社と後継者にとって無理のない承継方法を検討していく方向性が整理されました。

事業承継を「ある日の引継ぎ」で終わらせるのではなく、後継者が経営者になる過程として設計すること。そのことが、利用者、従業員、取引先にとっても安心できる会社づくりにつながります。

三尾会計事務所からのメッセージ

社員承継では、株式を譲れば終わりではありません。

大切なのは、後継者が会社の未来を理解し、自ら経営判断できるようになることです。

三尾会計事務所では、税務や法務の手続きだけでなく、事業計画を一緒に作りながら、後継者が経営者へ成長するプロセスまでご支援しています。

事業承継とは、会社を譲ることではありません。未来を共有できる人を育てることです。

このようなお悩みはありませんか?

  • 親族に後継者がおらず、社員への承継を考えている
  • 後継予定者はいるが、経営を任せられるか不安がある
  • 株式をいつ、どのように譲ればよいか分からない
  • 会社の価値や、後継者の資金負担を整理したい
  • 社員承継に向けて、事業計画を作りたい
  • 会社分割や役員退職金も含めて承継方法を比較したい

社員承継・事業承継についてご相談ください

まだ後継者が正式に決まっていない段階でも構いません。会社の状況と将来の選択肢を整理し、次に進む道筋を一緒に考えます。