遺言書の内容だけでは足りない。公証役場で「本人の意思」を確認し直した事例

遺言書を作成するとき、多くの方がまず考えるのは、
「誰に、どの財産を残すか」という内容です。
不動産、預貯金、自社株式などの財産を整理し、 相続税や遺留分にも配慮しながら、遺言書の原案を慎重に作成します。

しかし、どれほど内容を綿密に作り込んでも、 公正証書遺言を作成する段階で、思わぬところから手続きが止まることがあります。

今回の事例は、まさに 「遺言書の文章だけではなく、遺言者本人の意思が何より重要である」 ことを改めて実感した事例でした。


この事例から学べること

  • 公正証書遺言では、遺言者本人の意思確認が非常に重要である
  • 家族から勧められて遺言を作る場合でも、最終的には本人自身の意思である必要がある
  • 遺言書の内容だけでなく、「なぜこの遺言を作るのか」を本人が説明できる状態にしておくことが大切である
  • 専門家は文章を作るだけではなく、本人の意思を整理する役割も担う

相談のきっかけ

あるご家族から、父親の財産について公正証書遺言を作成したいという相談を受けました。

将来の相続で家族が困らないように、 誰にどの財産を残すのかを事前に整理しておきたいというご希望でした。

財産の内容や家族関係を確認しながら、 相続後に争いが起きないよう、遺言書の原案を綿密に作成しました。

遺言者である父親にも内容を確認してもらい、 公証役場との事前のやり取りも行ったうえで、 公正証書遺言を作成する日を迎えました。


公証役場で起きた思わぬ出来事

当日、遺言者である父親は息子と一緒に公証役場を訪れました。

公証人は、遺言書の内容について確認したうえで、 遺言者本人に念を押すように尋ねました。

「この遺言書の内容は、あなたご自身の意思ですね」

すると父親は、特に深い意味もなく、 次のように答えました。

「今日一緒に来ている息子に言われて作りました」

この一言で、状況が変わりました。

公証人としては、この遺言が本当に遺言者本人の意思によるものなのか、 あるいは家族から強く求められて作成しようとしているものなのかを 慎重に確認しなければなりません。

その結果、その日は公正証書遺言を作成することができませんでした。


表面的な問題は「何と答えればよかったのか」

ここだけを見ると、 「公証人に対して、どのように答えればよかったのか」 という問題のように見えます。

実際、公証役場を出た後、 同行していた息子は非常に腹を立てました。

時間をかけて遺言書の内容を検討し、 公証役場との準備も行い、 ようやく当日を迎えたにもかかわらず、 父親の一言で手続きが止まってしまったからです。

帰宅する途中、息子は父親を強く責めました。

しかし、本当の問題は、 「公証人にどう答えるか」ではありませんでした。


本当の問題は「これは本当に本人の意思なのか」

公正証書遺言で最も重要なのは、 遺言書の文章が整っていることだけではありません。

遺言者本人が内容を理解し、 自分自身の判断として遺言を残そうとしていること が重要です。

子どもが高齢の親を心配して、 「遺言書を作っておいた方がいい」と勧めること自体は珍しいことではありません。

むしろ、将来の相続トラブルを防ぐために、 家族が遺言作成を勧めることはよくあります。

しかし、

「息子に言われたから作る」

ということと、

「息子から勧められたことをきっかけに、自分で考え、 この内容で財産を残したいと決めた」

ということでは、意味が大きく異なります。


もう一度、遺言者本人に考えてもらった

そこで、再度公証役場へ行く前に、 遺言者本人の意思を改めて確認することにしました。

もし次に公証人から、

  • なぜこの遺言書を作るのですか
  • この財産の分け方はあなた自身が決めたのですか
  • この遺言内容は本当にあなた自身の意思ですか

と聞かれたら、自分はどう答えるのか。

それを誰かから教えられた言葉ではなく、 遺言者本人の言葉で文章に書いてもらう ことにしました。

文章にすることで、 遺言者本人にも改めて考えてもらいました。

  • なぜ遺言書を作るのか
  • なぜこの財産の分け方にするのか
  • 誰にどの財産を残したいのか
  • これは自分自身が望んでいることなのか

こうしたことを一つずつ整理してもらいました。


再度公証役場へ

本人の意思を改めて確認したうえで、 再度、公証役場を訪れました。

今回も、公証人から遺言内容や本人の意思について確認が行われました。

しかし今度は、遺言者本人が、 自分がなぜこの遺言を作ろうとしているのかを、 自分自身の言葉で説明することができました。

その結果、公証人による確認もスムーズに進み、 無事に公正証書遺言を作成することができました。


この事例で分かったこと

遺言書を作るときには、どうしても 「何を書くか」に意識が向きます。

  • 誰にどの財産を残すか
  • 不動産を誰が相続するか
  • 預金をどのように分けるか
  • 遺留分に問題がないか
  • 相続税はいくらになるか

もちろん、これらはすべて重要です。

しかし、その前提として、

「なぜ私は、この遺言を残したいのか」

を本人自身が理解していることが欠かせません。

遺言書は、子どもが作るものではありません。

専門家が作るものでもありません。

最終的には、遺言者本人が、

「これは自分が考えて決めた遺言です」

と言えるものである必要があります。


三尾会計事務所が考える遺言作成支援

遺言作成の支援というと、 法律上問題のない文章を作ることや、 相続税を計算することが中心だと思われがちです。

しかし、実際の現場ではそれだけでは足りません。

財産の整理、 相続税、 遺留分、 家族関係、 財産を残す理由。

これらを整理しながら、 最終的に遺言者本人が 「これが自分の意思です」と言える状態を作ることが重要です。

公証役場で一度手続きが止まったことは、 一見すると失敗のようにも見えます。

しかし、その出来事があったからこそ、 遺言者本人の意思をもう一度確認することができました。

結果として、 単に形式を整えた遺言書ではなく、 本人自身が納得した遺言書 として残すことができました。


遺言書を作ろうと考えている方へ

「遺言書を作っておいた方がいいのだろうか」

「子どもから遺言を作ってほしいと言われている」

「財産の分け方をどう決めればよいか分からない」

そんな段階からでも構いません。

三尾会計事務所では、財産や税金だけを見るのではなく、 ご本人のお考えやご家族の状況を整理しながら、 将来の相続を一緒に考えていきます。

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