「賃貸マンションの相続対策は『物件』ではなく『収益と負担』を分けて考える」

この記事の結論

賃貸マンションの相続対策では、土地・建物・借入金を一つの塊として考えないことが大切です。「誰が家賃収入を受け取るのか」「誰が借入金を返すのか」「土地と建物をいつ移すのか」を分けて検討すると、承継の選択肢が見えてきます。

賃貸マンションを何棟も所有している方から、「将来は長男に引き継がせたいが、何から始めればよいのか分からない」というご相談を受けることがあります。

物件の購入には金融機関からの借入れを利用し、今も毎月返済を続けている。家賃収入はあるものの、修繕費、空室、金利上昇も心配です。このような状態で、「土地も建物も借入金も、まとめて子へ移せばよい」と考えるのは危険です。

相続対策というと、相続税を減らす方法ばかりに目が向きます。しかし、本当に守るべきものは、税額だけではありません。親の生活と資金繰り、子の返済能力、入居者への対応、将来の修繕、そして賃貸事業そのものを続けられるかまで考える必要があります。

賃貸マンションは「一つの財産」ではない

一棟の賃貸マンションには、少なくとも次の要素があります。

土地
値上がりや含み益が生じやすく、相続財産として残る資産
建物
家賃収入を生む一方、減価償却や修繕が必要な資産
家賃収入
毎年積み上がり、預貯金など次の相続財産にもなり得る収益
借入金
返済、担保、金利変動を伴う負担

これらを分けてみると、「不動産の名義を全部変える」以外の方法も検討できるようになります。

基本は「含み益」と「将来の収益」を区別すること

長年所有してきた土地や建物には、大きな含み益が生じていることがあります。この資産を親子間で売買すれば、売る側には譲渡所得課税が生じる可能性があり、買う側には購入資金が必要です。

一方、何もせずに親が家賃収入を受け取り続ければ、借入金が減る一方で、手元に残った現預金が増え、将来の相続財産が膨らむ場合があります。

そこで検討したいのが、含み益のある資産を不用意に動かさず、将来の収益を生む部分から次世代へ移せないかという考え方です。

二つの判断原則

  1. 含み益のある資産の移転による課税を慎重に確認する
  2. 将来の利益を生むものを、無理のない負担で早めに次世代へ移せるか検討する

建物だけを移す方法も選択肢になる

例えば、土地は親が所有したまま、賃貸建物だけを子へ贈与する方法があります。土地については親子間の使用貸借とし、建物の所有者となった子が、その後の家賃収入を受け取ります。

この方法であれば、土地まで一度に動かす場合と比べ、移転する財産の範囲を限定できます。また、家賃収入が子へ移ることで、親の財産が今後増え続けることを抑え、子は将来の修繕や承継に備える資金を蓄えられる可能性があります。

贈与により取得した資産は、原則として贈与者の取得費と取得時期を引き継ぎます。そのため、目の前の贈与税だけでなく、贈与後の減価償却や、将来売却するときの譲渡所得まで含めた試算が必要です。

借入金を一緒に移せばよいとは限らない

建物を子へ移すときに、借入金や保証金等の返還債務も引き受けさせる案が出ることがあります。しかし、債務を負担させることを条件とした贈与は「負担付贈与」と判断される可能性があります。

土地や建物の負担付贈与では、一般的な贈与と評価方法が異なり、通常の取引価額を基礎として課税関係を考える取扱いがあります。贈与者側にも譲渡所得課税が生じる場合があるため、「借入金を差し引けば贈与税が少なくなる」と単純には判断できません。

さらに、家賃収入だけで返済できるのか、金利が上がっても耐えられるのか、金融機関が債務者や担保の変更を認めるのかという問題もあります。税金の計算以前に、子へ過大な負担を移さないことが重要です。

親に借入金を残す場合にも資金繰りが必要

反対に、建物と家賃収入を子へ移し、借入金だけを親に残す場合にも注意が必要です。親には返済義務が残るのに、返済原資となっていた家賃収入がなくなるからです。

親の現預金、年金、他の物件からの収入、生活費、納税資金を並べ、返済後も資金が不足しないかを確認します。繰上返済が可能であれば、金融機関との契約や担保抹消の条件を確認し、金利変動リスクを減らすことも検討します。

実行前に確認したい六つの項目

  1. 物件ごとの収益力
    家賃、空室率、管理費、修繕費、固定資産税を整理する。
  2. 建物と土地の評価
    固定資産税評価額、賃貸状況、権利関係を確認する。
  3. 借入金と担保
    残高、金利、返済期間、繰上返済条件、抵当権を確認する。
  4. 敷金・保証金
    誰が入居者への返還義務を負うのかを契約と会計の両面から整理する。
  5. 親子それぞれの資金繰り
    家賃収入の移転後も、双方の生活と返済が成り立つかを試算する。
  6. 賃貸経営の引継ぎ
    管理会社、修繕、入居者対応、帳簿、確定申告を誰が担うか決める。

税額が少ない方法より、続けられる方法を選ぶ

相続対策は、一回の贈与で完成するものではありません。複数の物件があるなら、収益性や借入状況を比較し、承継しやすい物件から段階的に進める方法もあります。

大切なのは、「今年の贈与税がいくらか」だけで決めないことです。親の相続税、所得税、子の所得税、将来の譲渡所得、借入金返済、修繕資金までを時間軸で並べる必要があります。

税負担が小さく見える方法と、家族が安心して続けられる方法は、必ずしも同じではありません。まず全体を数字にし、実行後の姿まで確認してから動くことが重要です。

実際の解決事例

金融機関からの借入れで複数の学生向け賃貸マンションを経営する父から、長男への承継について相談を受けました。土地・建物・借入金を一括して移すのではなく、対象物件を選び、建物と家賃収入を段階的に移す基本方針を整理した事例です。

借入金のある賃貸マンションを長男へどう引き継ぐか――解決事例を読む →

賃貸不動産の承継は、名義を変える前にご相談ください

同じ建物の贈与でも、借入金、保証金、土地の利用関係、贈与する時期によって税務上の取扱いと資金繰りは変わります。実行してから戻すのではなく、複数の方法を事前に比較することが大切です。

※本記事は一般的な考え方を紹介するものです。税制・通達は変更されることがあり、実際の課税関係は物件、契約、債務、贈与時期などによって異なります。実行前に最新の制度と個別の事実関係をご確認ください。

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