遺言執行者は必要か──相続が始まった後、家族の負担を減らす役割とは

遺言書を作るとき、多くの方がまず考えるのは「誰に、どの財産を残すか」です。しかし、遺言を書いた後にも、相続開始後の手続という大切な仕事が残ります。
預貯金の解約、証券口座の手続、不動産の名義変更、相続人や受遺者への財産の引渡し。財産が複数に分かれているほど、また相続人以外の方へ財産を遺したいほど、手続を進める人の負担は大きくなります。
そこで検討したいのが遺言執行者です。この記事では、遺言執行者が必要になる場面と、家族の負担を減らすために生前から整えておきたいことを、実務の視点で解説します。
目次
- 遺言を書いても、相続手続は終わらない
- 遺言執行者とは何をする人か
- 遺言執行者を検討したい5つのケース
- 遺言執行がスムーズに進むための準備
- 家族の負担を減らすために大切な視点
1.遺言を書いても、相続手続は終わらない
遺言書は、ご本人の意思を残すための大切な書面です。ただし、遺言書があるだけで、金融機関や法務局での手続が自動的に完了するわけではありません。
相続が始まると、死亡の届出、遺言書の確認、財産の調査、金融機関への連絡、預貯金・証券の解約や移管、不動産の登記、債務や未払金の確認など、複数の手続を順番に進める必要があります。
ご家族が対応できる場合もあります。しかし、相続人が遠方にいる、財産が複数の金融機関に分かれている、相続人以外の方に遺贈する、あるいは家族に手続の負担をかけたくないという場合には、手続を担う人をあらかじめ決めておく意味は大きくなります。
2.遺言執行者とは何をする人か
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続を行う人です。遺言の中で指定することができ、指定がない場合でも、必要に応じて家庭裁判所へ選任を申し立てることがあります。
具体的な業務は遺言内容や財産の状況によって異なりますが、主に次のような役割を担います。
- 相続人や受遺者へ遺言の内容を知らせる
- 預貯金・証券・不動産などの財産を確認する
- 金融機関等との連絡・解約・払戻し・移管の手続を行う
- 不動産の名義変更について司法書士と連携する
- 遺言に沿って財産を受遺者や相続人へ引き渡す
遺言執行者がいることで、ご家族や受遺者が各金融機関へ個別に連絡し、必要書類を集め、手続の判断をする負担を減らすことができます。特に、相続人ではない甥・姪、お世話になった方、法人などに財産を遺す場合には、遺言執行者を定めておくことが有効です。
3.遺言執行者を検討したい5つのケース
(1)相続人以外の方へ財産を遺したい場合
甥・姪、親しい友人、お世話になった方などは、法定相続人ではないことがあります。このような方へ財産を遺すには遺言が必要です。加えて、遺言を実際に手続へ移す担当者を定めておくことで、ご本人の意思を実現しやすくなります。
(2)子どもがいない、または相続人が少ない場合
配偶者や子どもがいない場合、法律上の相続人が兄弟姉妹や甥姪になることがあります。誰に財産を託すかというご本人の意思と、法律上の相続関係が一致しない場合ほど、生前の準備が重要です。
(3)財産が複数に分かれている場合
複数の預金口座、証券口座、不動産、貸付金などがあると、手続は増えます。相続人が手続に慣れていない場合、必要書類の確認だけでも時間がかかります。財産の全体像を把握している専門家が関与することで、進行を整理しやすくなります。
(4)相続人間の連絡や調整に不安がある場合
相続人同士が不仲という場合だけではありません。遠方に住んでいる、仕事や介護で手続に時間を割けないなど、実務上の事情があるだけでも負担は増えます。第三者が遺言に沿って手続を進めることで、ご家族が直接やり取りする場面を減らせる場合があります。
(5)家族に手続の負担を残したくない場合
「財産を遺すこと」と「手続を任せること」は別の問題です。受け取る方に負担をかけないため、遺言執行まで見据えて準備することは、ご本人からの大切な配慮になります。
注意:遺言執行者は、すべての遺言に必ず必要というわけではありません。一方で、財産の内容・相続関係・遺言の内容によっては、指定しておいた方が安心できるケースがあります。個別事情に応じて検討することが大切です。
4.遺言執行がスムーズに進むための準備
遺言執行を円滑に行うには、遺言書の内容だけでなく、生前の整理も重要です。
- 預貯金・証券・不動産・保険などの一覧を作る
- 口座番号や取扱金融機関、連絡先を分かる形にしておく
- 不要になった口座や資産を可能な範囲で整理する
- 遺言執行者や受遺者に、連絡先が分かるようにしておく
- 遺言内容を変更した場合は、財産一覧との整合性も確認する
もちろん、すべてを完璧に整理しておく必要はありません。それでも、手掛かりとなる資料や連絡先が残っているだけで、相続開始後の手続は大きく変わります。
実際に、複数の金融機関に口座をお持ちだった方が、生前に証券などを整理し、必要な情報を残してくださったことで、遺言執行をより円滑に進められた事例があります。生前の小さな準備が、受け取る方の安心につながります。
5.家族の負担を減らすために大切な視点
遺言は、財産を分けるためだけの書類ではありません。残される方が迷わず、必要な手続を進められるようにするための準備でもあります。
とくに、相続人ではない方に財産を託したい場合や、ご家族に負担をかけたくない場合は、遺言書の形式、財産の整理、遺言執行者の指定を別々に考えるのではなく、一つの流れとして整えることが大切です。
「まだ元気だから」「財産はそれほど多くないから」と考えているうちに、判断能力や体調の変化によって選べる方法が限られることもあります。早めに現状を整理することで、選択肢を持ったまま、ご自身の意思を形にできます。
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