生前贈与は「毎年110万円」だけで考えてはいけない理由

「毎年110万円までなら、贈与税はかからないから大丈夫」――生前贈与について、このように考える方は少なくありません。
しかし、生前贈与は単に毎年の金額を決めるだけの話ではありません。相続税がどの程度見込まれるのか、ご家族の関係はどうなっているのか、どの財産を誰へ託したいのか、そしてご本人の暮らしや将来の資金をどう守るのかまで含めて考える必要があります。
大切なのは、「今年いくら贈与するか」ではなく、家族全体の資産を、将来どのように引き継いでいくかです。この記事では、生前贈与を検討するときに、年間110万円の枠だけでは見落としやすい視点を整理します。
目次
なぜ「毎年110万円」だけでは足りないのか
暦年課税には、年間110万円の基礎控除があります。そのため、毎年この範囲で贈与を続ければよいと考えられがちです。
ただし、金額だけを先に決めても、誰に贈与するのか、どの財産を贈与するのか、いつまで続けるのかが整理されていなければ、家族全体にとって望ましい資産承継にはつながりません。
生前贈与は、税金を減らすためだけの手段ではありません。ご本人の意思を、ご家族の将来につなぐための設計です。
例えば、将来会社を引き継ぐお子さまと、会社を継がないお子さまとでは、必要となる資産の種類や承継の時期が異なることがあります。不動産、金融資産、自社株などを同じように分けることが、必ずしも公平とは限りません。
最初に確認したい5つの視点
1.相続税が本当にどの程度かかるのか
贈与を考える前に、まずは相続が起きた場合に、どの程度の相続税が見込まれるのかを把握します。不動産、預金、有価証券、自社株、保険などを含めて全体像を確認しなければ、必要以上の贈与や、優先順位を誤った贈与につながるおそれがあります。
2.誰に、何を残したいのか
贈与は、金額だけでなく受け取る人の状況が重要です。将来の生活、事業への関わり、ご家族との関係、すでに保有している資産などによって、適した承継の方法は変わります。
3.財産がどのような性質を持つか
預金のように分けやすい財産もあれば、賃貸不動産や自社株のように、安易に分けることで管理や経営が難しくなる財産もあります。財産の性質に応じて、贈与、相続、遺言などを組み合わせて考えることが必要です。
4.将来の資金需要に対応できるか
ご本人の生活費、医療費、介護費、住み替え、賃貸物件の修繕費など、将来必要となる資金は少なくありません。贈与を進めた後に、ご本人の資金が不足して選択肢を失うことは避けなければなりません。
5.数年後も同じ計画でよいか
家族構成、財産状況、税制、健康状態、事業の状況は変化します。生前贈与は一度決めたら終わりではなく、毎年または数年ごとに全体計画を見直していくことが大切です。
財産の種類で変わる贈与の考え方
生前贈与では、「いくら贈与するか」と同じくらい、「何を贈与するか」が重要です。
- 預金・金融資産:生活資金とのバランスを確認しながら、比較的柔軟に承継を検討できます。
- 賃貸不動産:家賃収入、修繕費、借入金、管理の負担まで含めて、誰が保有・管理するかを考えます。
- 自社株:会社の経営権に関わるため、後継者、株式の保有割合、将来の企業価値と一体で検討します。
- 利用予定のない不動産:保有を続けるのか、売却して資金化するのかも含め、将来の管理負担を整理します。
たとえば、賃貸不動産をお子さまへ贈与した場合、その後の家賃収入だけでなく、修繕や空室への対応も引き継がれます。財産そのものだけでなく、その財産に伴う責任や管理も承継されることを忘れてはいけません。
家族の公平と納得をどうつくるか
資産承継では、「全員に同じ金額を渡すこと」と「家族にとって公平であること」は必ずしも同じではありません。
会社を引き継ぐお子さまには自社株を、会社を引き継がないお子さまには別の資産を、という考え方が必要になる場合もあります。また、親御さまの介護や不動産管理を担う方への配慮が必要になることもあります。
大切なのは、財産の分け方だけを決めることではなく、なぜそのように考えるのかを整理し、ご家族が納得できる状態をつくることです。話しにくいテーマだからこそ、早い段階から専門家を交えて整理すると、将来の行き違いを減らすことにつながります。
ご本人の将来資金をどう残すか
生前贈与を進める際には、「残す財産」だけでなく、「これから使う資金」を確保することが欠かせません。
長寿化により、老後の生活は長期にわたります。医療や介護に加え、ご自宅の修繕、賃貸物件の大規模修繕、急な支出などに対応できる資金を残しておく必要があります。
贈与を急ぎすぎて、ご本人が将来の選択肢を失うことは本末転倒です。安心して暮らし続けられる資金を確保したうえで、贈与の額と時期を考えることが重要です。
贈与を一回の節税で終わらせない
生前贈与は、毎年の贈与額だけを確認する単発の手続きではありません。相続税、ご家族、不動産、会社、自社株、ご本人の将来資金を見ながら、長期的に設計していくものです。
贈与を始める前に全体像を整理しておけば、その後に財産状況や家族の事情が変わった場合にも、何を見直すべきかが分かりやすくなります。
「毎年110万円」という数字は、考えるための入口にはなります。しかし、その数字だけで、ご家族にとって最善の資産承継が決まるわけではありません。
ご本人の思いを大切にしながら、ご家族が将来困らない形へ整えていくこと。それが、生前贈与を家族全体の資産承継として考える意味です。
※具体的な贈与の方法や税務上の取扱いは、財産、ご家族、実行時期によって異なります。実行前に個別の確認が必要です。
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相続税、贈与、不動産、会社、ご家族の状況を一体として整理し、将来に向けた選択肢を一緒に考えます。
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