後継者がいるのに事業承継が進まない会社に共通する5つの問題

「息子が会社に入っているので、事業承継は何とかなるだろう」

「後継者は決まっているから、あとは株式を移せばいい」

そう考えている経営者は少なくありません。

しかし、実際の事業承継では、後継者がいることと、会社を引き継げる状態になっていることは別問題です。

特に、長年続いてきた中小企業では、社長の経験や人間関係、判断力によって会社が動いていることがあります。

その状態のまま代表者だけを交代すると、後継者は会社を引き継いだ直後から、売上、借入金、人材、取引先、金融機関への対応まで、すべてを背負うことになります。

事業承継で本当に確認すべきことは、
「後継者がいるか」ではなく、
「後継者が経営できる会社になっているか」です。

問題1 売上はあるが、将来の受注が見えていない

事業承継を考える会社で、最初に確認したいのが受注の状態です。

今期の売上が確保できていても、その売上が将来も続くとは限りません。

創業社長との長年の付き合いで仕事を発注してくれている取引先もあります。

社長が交代した後も同じように取引が続くのか。

新しい受注を誰が獲得するのか。

ここが明確になっていなければ、後継者は会社を継いだ瞬間から営業活動にも追われることになります。

確認したいこと

売上の何割が特定の取引先に依存しているか。

確認したいこと

新規受注を獲得する役割を誰が担っているか。

問題2 借入金は引き継げても、返済できるとは限らない

事業承継では株式評価や相続税に注目しがちですが、実際の経営では借入金の問題も非常に重要です。

会社の借入金は、社長が変わったからといって消えるわけではありません。

さらに、中小企業では会社借入だけでなく、工場や事業用不動産について経営者個人が借入をしているケースもあります。

重要なのは借入残高そのものではありません。

将来の利益とキャッシュフローから、無理なく返済できる状態になっているか。

これを確認する必要があります。

事業承継前に資金繰り表を作り、売上が減った場合、設備投資をした場合、人を採用した場合など、複数のケースを想定しておくことが重要です。

問題3 後継者が技術を知っていても、経営を知っているとは限らない

製造業では、後継者が現場で長く働き、技術や製品について十分理解しているケースがあります。

これは大きな強みです。

しかし、技術を知っていることと、会社を経営できることは同じではありません。

毎月の利益を把握できるか
資金繰りを予測できるか
金融機関へ会社の状況を説明できるか
社員の採用や配置を判断できるか
設備投資の可否を判断できるか
取引条件を見直す判断ができるか

こうした経験は、社長になってから突然身につくものではありません。

できれば承継前から、経営数字や金融機関対応に参加してもらうことが重要です。

後継者は決まっているものの、「今の会社をそのまま渡して大丈夫だろうか」と感じていませんか。

今の状況を相談する →

問題4 少人数になった会社では、昔と同じ経営はできない

長く続いている会社では、最盛期には10人、20人いた社員が、現在は数人になっているということもあります。

この場合、売上規模だけでなく、会社の仕事の進め方そのものを見直す必要があります。

以前は営業担当、製造担当、事務担当が分かれていたものを、少人数で同じように続けることはできません。

そこで重要になるのが、

残す仕事

自社の技術力や利益の源泉になる仕事。

やめる仕事

手間がかかる割に利益が残らない仕事。

外に出す仕事

外注や専門家へ任せた方が効率的な業務。

仕組みにする仕事

社長や特定社員の経験だけに頼っている業務。

です。

事業承継は、これまでの会社をそのままコピーして次の世代へ渡すことではありません。

次の経営者が経営しやすい形に会社を作り直す機会でもあります。

問題5 会社が苦しいときほど、承継と経営改善を分けて考えない

受注が減っている。

借入金が多い。

人員が減っている。

このような会社では、「今は事業承継どころではない」と考えがちです。

しかし、実際には逆の場合があります。

経営改善を行うときに、

「次の社長は誰なのか」

「その人がどのような会社なら経営できるのか」

まで考えれば、経営改善の方向も変わってきます。

会社を立て直すことと、事業承継を進めることは、別々の仕事ではありません。

例えば金融機関と経営改善計画について協議する場合でも、後継者が計画策定に参加していれば、その後の金融機関との関係づくりにもつながります。

資金繰りを改善する過程で後継者が数字を理解すれば、経営者としての経験にもなります。

「引き継ぐ方法」より先に、「引き継げる会社か」を確認する

事業承継というと、株価対策、持株会社、事業承継税制、贈与、相続などの制度が注目されます。

もちろん、これらも重要です。

しかし、その前に確認しなければならないことがあります。

会社は利益を生み出せているか
借入金を返済できるか
受注の見通しがあるか
後継者が経営数字を把握しているか
金融機関との関係を引き継げるか
社員や取引先が後継者を理解しているか

この土台ができて初めて、株式をいつ、どのように移すのかという具体的な承継方法を考えることができます。

実際の解決事例――会社を立て直すことから始めた事業承継

当事務所でも、後継者となるご子息はすでに会社で働いているものの、受注減少、借入金、人員減少などの問題を抱え、事業承継を進められない製造業から相談を受けたことがあります。

そこで、株式移転を急ぐのではなく、経営改善計画、資金繰り、金融機関対応、受注体制を整理し、まず「後継者が経営できる会社」をつくることから始めました。

事業承継とは、後継者に「未来」を渡すこと

会社には、長い年月をかけて積み重ねた技術、顧客との信頼、社員の経験があります。

それらを次の世代へ残すためには、単に会社の株式を渡すだけでは十分ではありません。

後継者が、

「この会社なら経営していける」

「自分なりに成長させていける」

と思える状態にして渡すことが重要です。

事業承継とは「会社を譲ること」ではなく、
「未来へ引き継げる会社をつくること」です。