起業するとき、最初からお金を借りるべきか|小さく始めて大きく育てるという考え方

起業するとき、「いくら借りられるか」から考えていませんか。
現在は、日本政策金融公庫をはじめ、創業時の資金調達を支援する制度が整っています。
友人や知人から頭を下げてお金を借りるよりも、金融機関から正式に借りた方が、後々の人間関係を考えれば気持ちは楽かもしれません。
しかし、ここで一度考えてほしいことがあります。
お金を借りられることと、そのお金を事業で返せることは、まったく別の話です。
創業融資が受けられたからといって、その事業が成功することまで保証されるわけではありません。
起業には「分からないこと」が多すぎる
事業を始めるということは、まだ確実な収入がない状態からスタートするということです。
特に、自分がこれまで経験したことのない業界へ入るのであれば、何が起こるか分かりません。
誰に売ればよいのか。
どこから仕入れればよいのか。
いくらなら買ってもらえるのか。
代金はいつ回収できるのか。
どれくらい広告費が必要なのか。
どのくらいの人員が必要なのか。
実際に商売を始めてみて、初めて分かることが非常に多いのです。
起業前の計画は「予想」であり、起業後に起きることは「現実」です。
同じ業界で働いた経験は、大きな財産になる
もちろん、まったくの未経験者と、その業界で長く働いてきた人では、起業の条件は大きく違います。
例えば、その業界で働いてきた人なら、
- どこから商品を仕入れるか
- 誰が顧客になりそうか
- どの価格帯なら売れるか
- どの業者と組めばよいか
- どこに利益が残るか
といったことを、すでに仕事の中で学んでいます。
自分で考えた商品やサービスを提供する場合でも、業界の仕組みを知っている人と、何も知らずに始める人では、スタート地点が違います。
私は、会社員として働いている期間を、
「給料をもらいながら、将来の起業に必要なことを学ばせてもらっている期間」
と考えてもよいと思っています。
5年、10年働くことには意味がある
起業したいと思ったからといって、急いで会社を辞める必要はありません。
むしろ5年、10年と組織の中で働くことで、
- 商品やサービスの作り方
- 価格の決め方
- 顧客との交渉
- 請求と入金管理
- 仕入先の見つけ方
- 人の採用と教育
- 業界内の人脈
などを身につけることができます。
しかも、その期間は給料を受け取りながら勉強できます。
独立するまでの会社員時代も、起業準備の一部です。
設備投資が必要な事業ほど、借入は慎重に考える
特に注意したいのが、飲食業、製造業、店舗ビジネス、システム開発など、最初に大きな設備投資が必要な事業です。
店舗を作る。 機械を買う。 システムを開発する。 人を採用する。
こうした事業では、売上が上がる前に多額のお金が出ていきます。
仮にその業界で十分な経験があったとしても、投資した設備から計画通りの売上が生まれる保証はありません。
しかし、売上が計画通りにならなくても、借入金の返済は始まります。
売上は予定どおりにならなくても、返済日は予定どおりに来ます。
これが、借入をして起業する一番大きな怖さです。
昔の「のれん分け」は、実は優れた独立制度だった
昔の日本には、「のれん分け」という仕組みがありました。
長年働き、店に貢献した人に、 顧客、商品、商売のやり方、人脈、信用などを引き継がせ、独立させる仕組みです。
何もないところから一人で始めるのではありません。
すでに価値のある看板や商売の仕組みを引き継いでスタートできる。
今でいえば、ブランドや営業権、ノウハウをある程度持った状態で起業するようなものです。
つまり、のれん分けは、 独立するときの失敗確率を下げる仕組み でもあったのです。
今は自分で「のれん」を作らなければならない
現在では、昔ながらののれん分けができる会社や店舗は限られています。
長年働いても、退職金を受け取って会社を辞めれば、そこから先は自分で商売を作らなければならないケースがほとんどです。
何を売るのか。
誰に売るのか。
どこで売るのか。
誰から仕入れるのか。
誰と一緒に仕事をするのか。
すべて自分で作る必要があります。
コンビニエンスストアなど、ブランド・商品・仕入れ・運営方法がある程度確立されているビジネスもあります。
しかし、その場合でも加盟料、設備、保証金、店舗、家賃など、相応の資金が必要になることがあります。
数千万円の自己資金を持って始めるのと、その大部分を借入で始めるのでは、同じ事業でもリスクは大きく違います。
まず「種銭」を作るという考え方
そこで私は、起業を考えている人には、 まず自分のお金を作る という考え方も持ってほしいと思います。
例えば、
「起業するまでに1,000万円を貯める」
という目標を決める。
給料から貯めてもよい。 副業をしてもよい。 得意な仕事で小さな収入源を作ってもよい。
この種銭を作る過程そのものが、 事業を始める練習になります。
本業以外でも収入を作れるか。
稼いだお金を使わず残せるか。
目標まで数年間続けられるか。
この3つができないまま多額の借入をしても、事業を続けるのは簡単ではありません。
最初から完成形を作らない
起業するとき、 最初から立派な店舗、最新設備、大人数のスタッフを揃えたくなることがあります。
しかし、最初から完成形を作る必要はありません。
まずは小さく始める。
売れることを確認する。
利益が出ることを確認する。
その利益を使って次の設備を買う。
そして少しずつ事業を大きくする。
小さく生んで、大きく育てる。
私はこれが、起業の一つの王道だと思っています。
自己資金で始める最大の強みは「失敗できること」
起業には失敗の可能性があります。
どれだけ準備をしても、予想外のことは起こります。
だからこそ、 失敗したときに何が残るかを考えておく必要があります。
自己資金を使って小さく始めたのであれば、 事業がうまくいかなかったときに資金を失うことはあっても、 多額の借金だけが残る状況は避けやすくなります。
一方、起業当初から大きな借入をすると、 事業をやめても返済義務だけが残ることがあります。
起業で一番避けたいのは、「事業をやめても借金だけが続く」状態です。
借りられるから借りる、ではなく「借りなくてもできないか」を考える
もちろん、すべての借入を否定するわけではありません。
設備が必要で、十分な需要が確認でき、返済計画にも余裕があるのであれば、借入を利用することも有効です。
ただ、起業当初から、
「借りられる金額」
を基準に事業規模を決めるのではなく、
「できるだけ借りずに始めるにはどうすればよいか」
から考えてみてほしいと思います。
まとめ|借金を背負う前に、経験と種銭を貯める
起業は、思い切りだけでするものではありません。
会社員時代に業界を学ぶ。
商品やサービスの作り方を覚える。
顧客や仕入先との関係を知る。
人脈を作る。
そして、自分のお金を貯める。
その準備をしたうえで、小さく始める。
起業の第一歩は、お金を借りることではありません。
借りなくても始められる力をつけることが、長く続く事業をつくる準備になります。
もし挑戦がうまくいかなかったとしても、 家族に残すものをできるだけ小さくする。
少なくとも、 事業の失敗と一緒に大きな借金まで残さない。
そこまで考えて起業することも、 経営者としての大切な準備だと思います。


