社員に会社を継がせるときに考えたいこと|「のれん分け型」事業承継という選択肢

「息子や娘は会社を継がない。でも、長年一緒に働いてきた社員なら任せられる。」

中小企業の事業承継では、こうした相談が少なくありません。

社員は会社の仕事を知っています。得意先も知っています。現場も社員も分かっています。 そのため、親族に後継者がいない会社にとって、社員承継は非常に現実的な選択肢です。

しかし、ここで一つ注意したいことがあります。

社員に会社を継がせるとき、
「今ある会社をそのまま渡すこと」が、必ずしも良い事業承継とは限りません。

三尾会計事務所では、事業承継を考えるとき、 「どうやって会社を渡すか」より先に、 「後継者が引き継いだあと、その会社を経営していけるか」 を考えます。

社員承継は「誰を社長にするか」だけではない

事業承継というと、 「株式を誰に渡すか」 「代表取締役を誰にするか」 という話から始まりがちです。

もちろん、それも重要です。

しかし、社員後継者の場合には、それ以上に確認しなければならないことがあります。

  • 会社の借入金を後継者が抱えて大丈夫か
  • 後継者にとって不要な資産まで引き継がせる必要があるか
  • 現在の得意先は、社長が代わっても取引を続けてくれるか
  • 現在の売上と利益で、承継後も会社を維持できるか
  • 古参社員との関係をどうするか
  • 創業者が会社から離れたあとも営業が続くか

社員として仕事ができることと、 経営者として会社を維持できることは、同じではありません。

「会社を渡す」のではなく「経営できる会社を渡す」

事業承継で大切なのは、後継者に負担を押しつけないことです。

たとえば、長年経営してきた会社には、 事業に直接必要ではない不動産、保険、有価証券、過去から引き継いだ債権や債務などが残っていることがあります。

創業者にとっては当然の資産であっても、 これから会社を経営する社員後継者にとって必要なものとは限りません。

だからこそ、承継前に一度会社の中身を整理します。

承継前に整理したい3つのこと

① 事業に必要なもの
得意先、設備、社員、営業債権・債務など、事業継続に必要なもの。

② 創業者側に残した方がよいもの
承継後の会社経営には直接必要のない資産など。

③ 承継後に負担となるもの
過大な借入金、不要な固定費、採算の悪い事業など。

こうして整理してみると、 「会社をそのまま引き継ぐ」以外の方法が見えてくることがあります。

「のれん分け」という考え方

私たちは、社員への事業承継を説明するとき、 ときに「のれん分け」という言葉を使います。

「会社分割」「組織再編」といった言葉だけでは、 経営者にも後継者にも、何をしようとしているのか分かりにくいことがあります。

しかし「のれん分け」と説明すると、意味が伝わりやすくなります。

長年働いてきた社員が、
会社の信用、得意先、仕事の流れ、技術、社員などを引き継ぎ、 新しい経営者として事業を続けていく。

これを現代の会社制度の中で実現する、と考えると分かりやすくなります。

実際には会社分割などの制度を活用する場合もあります。 ただし、制度そのものが目的ではありません。

大切なのは、 創業者が何を残し、後継者が何を引き継げば、その会社が続くのか を考えることです。

会社分割その他の法的手続については、必要に応じて外部専門家と連携しながら進めます。 税理士・会計事務所としては、財務・税務・資金繰り・事業計画の面から、承継後の会社の姿を確認していきます。

社員に会社を継がせたい。でも、どう渡せばよいか分からない。

その場合は、株式の話から始めるのではなく、 まず「承継後の会社の姿」を数字で確認することが大切です。

今の状況を相談する

承継後のB/S・P/Lを先に作ってみる

三尾会計事務所では、事業承継を検討するとき、 承継後の会社の貸借対照表と損益計算書をできるだけ具体的に作ります。

会社を引き継いだあと、 「利益は出るのか」 「借入金を返せるのか」 「資金繰りは回るのか」 を先に見るためです。

制度上可能だから実行する、という順番ではありません。

先に「承継後の経営」を考え、
その経営を実現するために、承継方法を選ぶ。

この順番が非常に重要です。

得意先を引き継げるかも確認する

社員承継で特に重要なのが、得意先です。

現在の売上が会社についているのか、 それとも創業社長個人についているのか。

ここを確認せずに承継すると、 社長が退任した途端に売上が減ってしまうことがあります。

そのため、主要得意先を確認し、 どの得意先を誰が担当しているのか、 創業者がいなくなったあとも継続できるかを確認します。

必要であれば、承継前から後継者を得意先へ紹介し、 徐々に営業関係を移していくことも必要です。

社員後継者に「買える金額」であること

もう一つ重要なのが、承継の対価です。

創業者にとって会社は、 何十年もかけて築いてきた大切な財産です。

一方、社員後継者には、創業家ほど大きな資産がないことも珍しくありません。

高すぎれば後継者は引き継げません。 安すぎれば創業者が納得できません。

ここでも重要なのは、 単に会社の価値を一つの数字で決めることではありません。

創業者が納得できること。
後継者が無理なく支払えること。
そして、支払い後も会社経営が続けられること。

この3つを同時に満たす必要があります。

実際に「のれん分け型」で社員承継を検討した事例

実際に、小規模な電気工事会社で、 創業者から長年勤務してきた社員へ事業を引き継ぐ相談がありました。

そこで、会社をそのまま渡すのではなく、 いわば「のれん分け」に近い考え方で事業を整理しました。

旧会社に残すものと、 後継者側へ引き継ぐ事業・資産・負債を整理し、 承継後の収益力や資金繰りを確認しました。

そのうえで、創業者が築いてきた事業基盤と、 後継者側の負担の両方を考慮し、 双方が納得できる承継条件を組み立てていきました。

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社員後継者への「のれん分け」で事業承継|会社分割を活用した解決事例

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事業承継は「渡す日」ではなく「渡した後」から考える

事業承継の相談では、 「いつ社長を交代するか」 「株をどうするか」 「いくらで渡すか」 に目が向きます。

しかし、本当に重要なのは、その先です。

後継者が会社を引き継いだ翌月から、 給与を払い、仕入代金を払い、借入金を返済し、 得意先から仕事を受注していかなければなりません。

だからこそ、 承継方法を決める前に、 承継後の会社がどのような姿になるのかを考える必要があります。

良い事業承継とは、
会社を渡せた承継ではなく、
後継者がその会社を続けられる承継だと考えています。

社員への事業承継を考えている経営者の方へ

株式承継、会社分割、資産整理など、 方法は会社ごとに異なります。 まずは「後継者が経営できる会社」をどう作るかから一緒に考えます。