相続税対策で借金して賃貸物件を建てる前に|「税金が下がる」だけで決めてはいけない理由

「空いている土地があります。借入をして賃貸物件を建てれば、相続税対策になります。」
金融機関や不動産会社から、このような提案を受けることがあります。
確かに、これまでは借入を利用して賃貸物件を取得・建築することで、相続税評価額を引き下げられるケースがありました。
しかし、相続税が下がるかどうかだけで、30年続く不動産経営を始めてよいのでしょうか。
相続税対策で最初に見るべきなのは、「税金がいくら下がるか」だけではありません。
借入返済、空室、金利、修繕費、そして将来の遺産分割まで含めて、家族に本当に残るものを確認する必要があります。
相続税対策として賃貸物件を建てる仕組み
例えば、被相続人が月極駐車場として利用している土地を持っているとします。
その土地に借入をして賃貸住宅を建築すると、
- 現金よりも建物の相続税評価額が低くなる場合がある
- 土地も貸家の敷地として評価が下がる場合がある
- 借入金は一定の要件のもと相続財産から債務控除できる
などの効果が生じることがあります。
そのため、
「借入をして建物を建てれば相続税が下がる」
という説明になりやすいのです。
実際、被相続人の借入金など一定の債務は、相続税の計算上、遺産総額から控除することができます。
しかし、これからは「評価差」だけを狙う対策が難しくなる
ここで大きく変わるのが、貸付用不動産の相続税評価です。
令和9年1月1日以後の相続等では、一定の貸付用不動産について評価方法が見直されます。
相続開始前5年以内に対価を伴う取引で取得・新築した一定の貸付用不動産は、従来型の評価ではなく、市場価格に近い評価となる方向です。
課税上の弊害がない場合には、取得価額を基礎として地価変動等を考慮した価額の80%相当額で評価できる仕組みも示されています。
つまり、
取得した直後に相続が発生し、「購入価格は高いのに相続税評価額は大きく下がる」という評価差だけを利用した節税効果は、従来より期待しにくくなります。
ここは、今後の相続税対策を考えるうえで非常に重要な変更です。
相続税が下がっても、30年間で現金が残るとは限らない
もっと重要なのはここです。
賃貸物件を建てるということは、 相続税対策をすると同時に、 長期間の不動産経営を始めるということです。
建築会社などから提示される収支計画では、 家賃収入と借入返済を中心に説明されることがあります。
しかし、実際に確認したいのは、
30年間、現在の賃料水準を維持できるか。
地域人口や競合物件を考慮しているか。
金利上昇時でも返済できるか。
外壁、防水、設備、給排水などの更新を織り込んでいるか。
保有期間中の税負担を含めているか。
管理委託、保険、原状回復などを見込んでいるか。
という、実際の現金収支です。
修繕費は「その時になって考える」では遅い
賃貸物件は建てたときが完成ではありません。
10年、20年、30年と経過すれば、 外壁、防水、屋根、給排水、空調、給湯器などにまとまった支出が必要になります。
したがって、建築前の時点で、
家賃収入-経費-借入返済-将来修繕費
まで含めた長期キャッシュフローを見る必要があります。
表面上は毎年黒字でも、 将来の大規模修繕を含めれば、実際にはそれほど現金が残らないケースもあります。
借入金を返した後、何が残るのか
30年間借入を返済した結果、 もちろん土地と建物は残ります。
しかし、建物は30年間使用した建物です。
したがって、
「借入返済が終わる=その時点から大きな利益が出る」
とは限りません。
大規模修繕、設備更新、賃料低下、建替えなど、 次の支出が始まる可能性もあります。
相続税がいくら下がるかではなく、30年後に家族の手元に何が残るのか。
ここまで確認して、初めて「相続対策として有効か」を判断できます。
都心の好立地と、それ以外の地域では条件が違う
もちろん、すべての賃貸物件が問題だということではありません。
都心の好立地で、 将来も賃貸需要が見込め、 土地そのものの価値も維持される地域であれば、 有効な投資・相続対策になる可能性があります。
一方、 人口減少が進む地域や供給過剰の地域では、
- 空室が増える
- 賃料が下がる
- 売却しにくい
- 修繕負担だけが残る
可能性があります。
同じ「賃貸物件を建てる」という話でも、 土地の場所によって判断は大きく変わります。
小規模宅地等の特例も「建てれば必ず使える」わけではない
貸付事業用宅地等については、一定の要件を満たせば、 200㎡まで相続税評価額を50%減額できる小規模宅地等の特例があります。
ただし、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供した宅地等については、 原則として対象外となるなどの要件があります。
そのため、
「賃貸物件を建てれば、土地の評価も必ず大きく下がる」
とは考えないことが重要です。
相続人が複数いる場合は、さらに注意が必要
相続税だけを見て賃貸物件を建てると、 相続発生後に別の問題が出ることがあります。
例えば、
- 長男が賃貸物件を相続する
- 次男が自宅や預金を相続する
- 賃貸物件には多額の借入金が残っている
という場合です。
単純に不動産の評価額だけで公平かどうかを判断することはできません。
賃貸物件を取得する人は、 その後の借入返済、修繕、空室リスク、管理業務も引き継ぐことになります。
一方で、預金を相続した人にはその負担がありません。
したがって、生前の段階から、
まで考える必要があります。
相続税対策は「財産を増やすこと」だけではない
相続対策というと、 新しい不動産を購入することばかりに目が向くことがあります。
しかし実際には、
- 不要な不動産を売却する
- 管理しにくい不動産を整理する
- 納税資金を確保する
- 相続人ごとに取得財産を整理する
- 遺言書で分け方を決めておく
ことも重要な相続対策です。
資産を増やす相続対策から、家族が管理できる資産へ整理する相続対策へ。
まとめ|相続税が下がることと、よい相続対策であることは同じではない
借入をして賃貸物件を取得・建築する方法は、 条件によっては相続対策として有効です。
しかし、
- 相続税評価は本当に下がるのか
- 今後の税制改正の影響はないか
- 30年間の現金収支はどうなるのか
- 修繕費を織り込んでいるか
- 金利上昇に耐えられるか
- 誰が不動産と借入を引き継ぐのか
- 他の相続人との公平は取れるか
まで確認して判断する必要があります。
相続税を減らすために、家族へ30年の負担を残してはいけません。
税額だけでなく、現金・不動産・借入・遺産分割を一体で考えることが、本来の相続対策です。
投資採算そのものについて詳しく知りたい方へ
相続税対策として賃貸物件を建てる場合でも、投資として採算が合うかどうかの確認は欠かせません。
入居率、金利上昇、修繕費、家賃下落まで含めた長期キャッシュフローについては、こちらの記事で詳しく解説しています。


