相続財産はいらないという選択|実家・農地・会社株・借金を残されたときの相続放棄と生前対策

相続が発生すると、 「財産をもらえるのだから、ありがたいことだ」 と思われがちです。
しかし、実際の相続では、 すべての人が「相続財産をもらえてうれしい」と思うわけではありません。
預金や有価証券なら、 相続した後に使う、運用する、売却するという選択が比較的しやすいでしょう。
ところが、相続財産の中には、 価値はあるかもしれないけれど、自分には必要ない財産 があります。
相続は、「何をもらえるか」だけの問題ではありません。
その財産を取得した後、 誰が管理し、費用を負担し、借金を返し、 責任を引き継ぐのかまで考える必要があります。
「相続したくない」と思う財産もある
たとえば、次のような財産です。
自分は住まない。固定資産税や修繕費はかかり、簡単には売れない。
農業をする予定がなくても、管理の問題が残る。
株式を取得するだけでなく、会社を今後どうするかという問題も残る。
家賃収入だけでなく、返済・修繕・空室リスクまで引き継ぐ。
帳簿や相続税評価だけを見れば、 「財産を相続した」ということになります。
しかし、相続する本人にとっては、 資産ではなく負担になることもあります。
「後はお前に任せる」と言われても困ることがある
特に難しいのが、 生前から親に、
「この家はお前に任せる」
「先祖からの土地だから残してほしい」
「会社はお前が何とかしてくれ」
と言われてきたケースです。
さらに、自分一人しか法定相続人がいなければ、 「結局、自分が全部引き受けるしかない」 と思ってしまうかもしれません。
親が残したい財産と、子どもが引き継ぎたい財産は同じとは限りません。
相続する側にも、仕事、家族、年齢、住んでいる場所、 経済状況があります。
所有者にとって大切な財産でも、 次の世代が維持できなければ、 相続後に大きな負担になる可能性があります。
相続には「相続しない」という選択もある
そこで知っておきたいのが、 相続放棄です。
相続放棄をすると、 その相続について、 亡くなった方の権利も義務も原則として引き継がないことになります。
相続放棄の基本
・家庭裁判所への申述が必要
・原則として、自分のために相続が始まったことを知ってから3か月以内
・預金だけ相続して、借金だけ放棄することはできない
・欲しくない不動産だけを選んで放棄することもできない
つまり、 相続放棄は「いらない財産だけを捨てる制度」ではありません。
財産と債務を含めて、 相続するのか、相続しないのかを判断する制度です。
まず、財産と借金の全体像を調べる
問題は、 亡くなってすぐに財産の全体像が分かるとは限らないことです。
知らなかった借入金が出てくる。
会社の保証債務が見つかる。
地方に知らない土地がある。
賃貸物件に多額の修繕が必要だった。
こうしたこともあります。
相続直後に確認したいもの
自宅・土地・農地・賃貸物件
預金・有価証券・保険
自社株・貸付金など
借入金・未払金・保証関係
3か月以内に調査しても判断できない場合には、 家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てる制度もあります。
財産はあるが、借金が分からない場合
相続には、 単純承認、相続放棄のほかに、 限定承認という制度もあります。
限定承認は、 相続によって得た財産の範囲内で 被相続人の債務を負担するという制度です。
「財産はありそうだが、借金の全体像が分からない」
こうした場合には、相続放棄だけでなく限定承認を検討する余地があります。 共同相続人がいる場合、限定承認は相続人全員で行う必要があります。
自分が放棄すれば、すべて終わるとは限らない
相続放棄について、 もう一つ知っておきたいことがあります。
先順位の相続人が放棄すると、 次順位の親族が相続人になる場合があります。
子などの第1順位
↓
父母・祖父母などの第2順位
↓
兄弟姉妹などの第3順位
ですから、 「私は相続放棄をしたから、これで全部終わった」 とは限りません。
次に誰が相続人になるのかも確認する必要があります。
相続放棄をしても、家や株が誰かに引き取られるわけではない
ここは、相続放棄を考えるうえで非常に重要です。
たとえば、 誰も住みたくない地方の実家があるとします。
あるいは、 誰も経営したくない会社の株式があるとします。
自分が相続放棄をしたからといって、 その瞬間に誰かがその家や株式を 引き取ってくれるわけではありません。
相続放棄は、「財産を消す制度」ではありません。
自分が相続しないという選択をする制度です。 家、土地、農地、株式そのものがなくなるわけではありません。
次順位の相続人がいれば、 今度はその人が相続するか放棄するかを判断します。
そして、相続人全員が放棄するなどして 結果として相続する人がいなくなった場合には、 必要に応じて家庭裁判所で 相続財産清算人を選任し、 債務の支払いや財産の整理を進めることがあります。
つまり、 「欲しくないから放棄すれば、誰かが何とかしてくれる」 というほど単純ではありません。
「放棄したから、もう関係ない」とも限らない
相続放棄をした時点で、 その相続財産を実際に占有しているケースにも注意が必要です。
たとえば、 親と住んでいた実家にそのまま住んでいる場合などです。
相続放棄と、現実の財産管理は別の問題です。
放棄した時に相続財産を現に占有している場合には、 次の相続人や相続財産清算人へ引き渡すまで、 一定の保存義務が残る場合があります。
一方で、遠方に住んでいて その財産を現に占有していない人まで、 相続放棄後も一律に管理義務を負うということではありません。
だから、本当は亡くなる前に整理しておきたい
相続放棄は、 相続人を守るための大切な制度です。
しかし、 相続放棄が必要になる状況を 生前から予想できるのであれば、 その前にできることがあります。
相続放棄は、相続人を救う制度ではあります。 しかし、財産そのものを消してくれる制度ではありません。
だからこそ、残す側が生前から 「この財産の出口はどうするのか」まで考えておく必要があります。
地方の実家なら、生前に「出口」を考える
誰も住む予定がない実家であれば、 単に「長男へ残す」と決める前に、 今後どうするのかを考えます。
生前に売却できないか
貸す・利用する方法はあるか
境界・登記・老朽建物などを整理できないか
相続人が困ると分かっている財産を、 何もしないまま相続まで残す必要はありません。
農地なら、「誰が使うのか」を確認する
農地は、 一般的な宅地と同じ感覚で処分できるとは限りません。
後継者が農業をしないのであれば、 相続後に考えるのではなく、 生前から利用、貸付け、売却などの可能性を確認しておく必要があります。
「先祖から受け継いだ土地だから残したい」 という気持ちだけでは、 次の世代に管理負担を残すことがあります。
会社の株式なら、「誰に株を渡すか」より会社の将来を考える
経営状態が悪く、 今後の見通しも立っていない会社の株式も同じです。
自社株を引き継げば、 株式という財産だけが手元に来るわけではありません。
会社を続けるのか。
誰が経営するのか。
売却するのか。
廃業するのか。
社員や取引先をどうするのか。
という問題までついてきます。
後継者に「株」を残す前に、 「引き継げる会社」を残すことが重要です。
借入金の多い賃貸不動産は、評価額より収支を見る
賃貸アパートを相続する場合、 土地と建物という資産だけを見るのでは十分ではありません。
家賃収入はいくらあるか
借入金はいくら残っているか
今後、大規模修繕はいくら必要か
空室が増えても返済できるか
相続した人が管理を続けられるか
相続人が維持できないと分かっているのであれば、 生前売却や借入金の整理などを検討することも相続対策です。
「残したい」より、「引き継げるか」を考える
財産を築いた本人にとっては、 実家にも土地にも会社にも、 それぞれ思いがあります。
その思いは大切です。
しかし、相続は次の世代の生活にも関係します。
良い相続とは、 財産をたくさん残すことだけではありません。
次の世代が困らずに引き継げる状態にして渡すことです。
生前に確認したい7つのこと
何を所有しているか
借入金・保証関係はないか
誰が相続するのか
その財産を本当に欲しいのか
管理・返済を続けられるか
売却・活用・整理ができるか
放棄した場合、財産と次順位の相続人はどうなるか
相続対策は、「何を残すか」だけではない
これまで相続対策は、 「相続税をどう減らすか」 「誰に何を相続させるか」 という方向から考えられることが多くありました。
しかし、もう一つ重要な問いがあります。
「この財産を、本当に次の世代へ渡してよいのか」
相続人が欲しくない財産、 維持できない財産、 借入金と一体になった財産を残すのであれば、 相続が発生してから考えるのでは遅いことがあります。
生前に財産と債務を棚卸しする。
相続する家族の意思を聞く。
必要なら売却・整理・事業承継対策を進める。
それも重要な相続対策です。
「この財産を本当に子どもへ残してよいのか」 一度確認してみませんか。
不動産、農地、自社株、借入金、賃貸物件まで、 財産と負担を一緒に整理し、相続後まで見据えて考えます。
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